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第46話
真っ暗な場所にぼんやりと灯りが見えてきた。
鳥飼はどうやらそこに向かって走らせているようだ。
やがて車は停まった。
鳥飼はエンジンを切ると外に出て助手席に回り、ドアを開けた。僕のシートベルトを外す。
そこで僕は初めて気づいたような振りをした。
「ここは……」
鳥飼は何も言わず僕の腕を引っ張り降りるよう促した。しかし足も縛られていては降りれるはずもなく、僕は顔から着地してしまう。弾みで口を覆っていたタオルが外れた。もともと縛り方が緩かったのかも知れない。
「てっ」
「ちっ」
(ひどっ。自分で縛っておいて、なんで舌打ちっ)
彼は僕を荷物のように軽々と担ぎ上げた。背は高いけどひょろっとした体格なのに思わぬ馬鹿力だと思った。しかしよくよく考えみると気を失った僕を車まで運んでいたのだった。
僕は彼に担がれながら辺りを回す。暗くて余り良くわからないが、周りには木しかないようだった。そしてぼんやりと灯りにやはりぼんやりと映しだされていたのは、こぢんまりとしたログハウス。灯りは土に刺さったソーラライトのようだった。
(ここって……もしかして……)
兄の遺体が発見されたH市の山中なのではないかと思った。兄が言った通り、もし本当に鳥飼が兄を殺していたとしたら。
(まさか……この中で……?)
僕を担いだまま鳥飼は鍵を開けた。
真っ暗な部屋の中に僕を放り投げる。
「い……っ」
首を絞められたり殴られたり放り投げられたり。今日は踏んだり蹴ったりだ。しかし殺されるかも知れないことを考えたらそんなことは些細なことかも知れない。
室内に柔らかな灯りが灯った。
天井には室内灯はなく鳥飼がランタンを手にしていた。彼はそれを中央にある木のテーブルに置いた。
この建物は一部屋らしい。
ミニキッチン。テーブルセット、ソファー。壁側にベッド。上に視線を上げるとロフトが見えた。外観から感じるよりも中はかなりお洒落だ。使用感もあるところをみるとここにはよく来ているのかも知れない。
しかし、僕はなんというか。
さっきから。
このログハウスに入って来た時からなんだか重苦しい空気に包まれている。
これから鳥飼に何をされるのかという不安からではなく、本当に周りの空気に押しつぶされそうな圧を感じているのだ。
鳥飼はもう一度僕を担ぎ上げて、今度はベッドの上に放り投げた。スプリングが効いていて布団もふかふかなので今度は痛くない。
彼は僕を一旦放置して部屋の隅に向かった。丸いストーブが置いてありそれをテーブル近くに持ってきて点火した。
蒸し蒸しする梅雨の時期とは言え、夜中の山中はやはり冷える。僕も寒さに震えていたので次第に暖まってくる室内にほっとした。
(この状況考えたらほっとなんかしてる場合じゃないんだけどっ)
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