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第52話
「どっちにしても、探すあても大学くらいしか思いつかないし、信じてみようと思ったよ。彼を車に乗せて彼の案内でH市の山道に来てぞっとしたよ――ゆきの遺体が発見された場所の近くだって」
それに気づいた時の蒼矢の気持ちを思うと涙が出そうになる。そこだけ妙に淡々とした口調なことに彼の想いが現れているような気がした。
「山道に入ってからこのログハウスに着くまで……すごく不思議なことが起きた。きっと誰に言っても信じて貰えないかも知れないけど、あゆなら信じるよな?」
いったい何が起きたというのか、僕は続く言葉を待った。
「灯りの乏しい、いや真っ暗と言っていいはずのあの道が先を示すようにぼんやり明るくなっていくんだ。祈くんが案内する方向はそれと合致していた」
『お守り』のことと言い、人ならざるものが見えるという以外に祈には不思議な力があるらしい。僕が思った以上に。これは確かに他の誰かに話しても信じて貰えないだろう。
だけど僕は。
「……信じます、その話。実際そんなことでもなければ蒼矢さんはここには辿り着かなかっただろうし、僕もどうなっていたかわからない」
(もしかしたら、兄のように……)
それを言うのは蒼矢には酷なことだろう。自分の胸の中だけに留めた。
「――それで、祈は何処にいるんですか?」
ここに入って来たのは蒼矢だけだ。
「ん? あれ?」
祈のことを話していながらも今はその存在を忘れていたのか、蒼矢は首を傾げる。それから立ち上がって外へと出て行った。僕もその後をついて行く。
「車から一緒に降りて……そう、あの斧を見つけたのも祈くんだった。けど……いないなぁ」
「いませんね」
ログハウスの周りを一周して車の中も確認してみたが彼は見当たらなかった。
「帰ったのかな」
僕が言うと、
「えっまさか、どうやって?」
信じられないという顔をした。
「どうやってでしょう」
僕は苦笑いした。
(また叔父さんが迎えに来たのかな)
祈の不思議な力を考えると、あの叔父にも何かあるのではないかと思わずにいられない。
それに。
(本当に叔父なのかも怪しい〜)
僕は祈に彼のことを『人間なのか』と訊ねたことを思い出した。
(僕の感は外れてなかったのかも)
「祈は大丈夫ですよ」
僕がそう断言したので蒼矢は「そうか」と納得したようだった。
「あゆと祈くん、通ずるものがあるのかな」
僕らは再びログハウスの中に入った。
「これは……凄いな」
改めて見てみると室内は台風が来たような荒れ様だった。椅子は横倒しになっているし、食器などが割れて床に散っている。
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