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第53話

「どうしてこんなふうに……この部屋にだけ嵐でもきたか?」  冗談とも真剣とも取れる微妙な表情で言う。この状況をどう考えたらいいのかわからないのだろう。 「あ、そうかもー」 「なんだ、それ」  僕らは「はは」と同時に乾いた笑いを漏らした。  僕は真実を知っている。これは霊が起こした『ポルターガイスト』だと。しかし真実を言うことは兄がしたことを話さなければならない。それはまだ躊躇してしまう。もし話すとしてもまだ時間が欲しい。  僕のは誤魔化しの笑いだ。 「これからどうするかーーとりあえず夜明けまで待つか」  祈の持つ不思議な力の導きでここまで来た。祈がいない今は夜明けを待って()く道が見えるようになってから出発するのが妥当だろう。 「鳥飼さんは……大丈夫?」  危険な男だ。そして兄を殺した男だ。でも死を望んでいるわけではない。 「大丈夫だ、気を失ってるだけ」  僕は心の底からほっとした。鳥飼の為だけでなく、兄の為にも。 「このままにはしておけないか、とりあえずベッドに放り込んで」 (そういえば……なんか寒っ)  今までバタバタしてて気づかなかったが落ち着いて話をしているうちに寒さを感じるようになった。ストーブの火は消えているようだ。  僕が自分の腕を抱いてぶるっと震えたことに蒼矢が気づいて室内を見回す。ストーブを見つけて近づいて行く。 「なんでついてないんだ、夜は寒いだろうに」 「はは」  僕はまた乾いた笑いを漏らした。 (それも兄ちゃんが……とか言えない)  蒼矢は気を失っている鳥飼をまじまじ見た。それから部屋の中を物色し始めた。さっきのポルターガイストで棚の扉も開いたり閉じたりしていて半開きのところも幾つかある。  蒼矢は何処かの棚にでも入っていたのだろうか、ビニール紐を手にしていた。 (えっ何するのっ) 「気づいて暴れられると困るからな。まあ勝つ自信はあるけど」  そう言いながら足と手を縛った。 「手はそれを嵌めておいてやりたかったけど使えないし」  ちらっと僕の手に視線を走らせる。切り離して貰ったので自由になったとはいえ、僕の両手首にはまだ黒のファーの手錠がついたままだ。今となってはなんだか艶っぽいアクセサリーのようだ。 「まぁあゆがつけてたほうが可愛いしな」  意味深な笑みを浮かべる。 (え、ええ〜なにっいつもの冗談だよね?)  内心どきどきしていると。 「俺じゃない奴に何されちゃってんのって感じだけど」  ぼそっとそんな声がした。こっちは冗談って感じではない。 (何? 今の? 嫉妬とか……いやいやまさか)  今のは聞かなかったことにしよう。  蒼矢は鳥飼を担ぎ上げベッドの上に乗せ布団をかけた。 「低体温症にでもなったら困る」  高校時代からの親しい先輩、今は仕事の依頼人(クライアント)でもある、そんな鳥飼を自らこんなふうにしている蒼矢はどれだけ複雑な心境なのだろう。

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