61 / 100

第61話

「あはははは」  突然僕が――ではなく兄が大笑いし始めた。  そうなのだ。  今まで蒼矢と話をしていたのは全部兄だった。  あの日消えた兄は実はまだ僕の中にいた。  暫くは気配もなくわからなかったけど。蒼矢に誘われた日、僕の目の前に姿を現した。 「兄ちゃん……」 「歩」  あのどろどろとどす黒い雰囲気は何処にもなく、生前の美しく柔らかな姿――それよりも透明感があって更に美しく見えた。最終目的は果たせなかったが、鳥飼から僕らを引き離せたことや社会的制裁を加えられたことで気持ちが晴れたのかも知れない。 「歩、お願いがあるんだ」 「兄ちゃん」 「蒼くんと話をさせて欲しい」  僕はその願いを叶えるしかなかった。  兄が行動している時僕のほうは記憶があったりなかったりしていたが、その辺の調節は兄がしていたようだ。兄のほうは僕が行動している間も僕と意識を共有していたらしい。  そして今日兄はすべてを僕に見せ、聞かせるつもりでいるのだろう。 「なんでわかったの、蒼くん」  僕の声で兄は言う。 「俺はあの日お前を見た、死んだはずのお前がいるのを。あゆが人間でないモノを見るとお前に告白された時は、霊の存在は半信半疑だったけど。実際に目の前に現れれば信じざるを得ないだろ」  蒼矢はかなり冷静だった。もうすべてを受け入れているという感じだ。 (蒼矢さん柔軟過ぎる〜) 「さっき話していたあゆの身体を借りてゆきが行動していたのは本当だろ。だったら今ゆきがあゆの中にいてもおかしくはない。それにあゆ……歩は……あんなふうに告白してこないと思う。俺への告白部分が仮に本当だとしても、たぶん自分の中に全部閉じ込めているはずだ」  蒼矢がじっと僕の目の奥を見詰めている。僕自身の意識を探すように。 「俺には……行帆と歩の区別くらいつく。まあ『歩の中に行帆がいる』のを知ってからだけど。でも時々違和感は感じていたよ」 「蒼くん、さすがだ。おれのことすっごい愛してたもんな〜」  兄はふざけたような口振りしたがとても嬉しそうに笑っている、僕の顔を使って。蒼矢と二人だけの時にはこんな話し方をする人だったんだ。僕の知っている兄とは少し違う。  そして心なしかマウントを取られているような気がしてならない。 「ああ、愛してたよ。とても大事だった」  兄の言葉に蒼矢は真剣な顔をして答えた。そこはもう少し軽く応えてくるかと思っていたのに。僕の胸はちくんっと痛んだ。 (やっぱり……蒼矢さんは今でも兄ちゃんを……) 「だから知りたい……ずっと知りたかった。どうしてお前が一人であんなところで死ななきゃならなかったということを。しかも本当は鳥飼さんに殺されただなんて。いったい何があったんだ?」  

ともだちにシェアしよう!