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第62話

「うん……わかってる。今日はそれを話にきた」  さっきとは打って変わった神妙な顔になった。 * *  おれと蒼矢が出会ったのはおれが中二、蒼矢が高二の時だった。  近所に住む従兄の陽翔の家には突然連絡もせずに遊びに行くことも多くその日もそうだった。夏休みだったこともあって午前中から風見家に突撃した。母はパートで働いていたし、歩は保育園に行っていて自分の家には誰もいなかった。  そこにいたのが月城蒼矢だ。前日から泊まりで遊びに来ていたらしい。クラスメイトで部活も同じだと紹介された。  おれはこの(ひと)を知っていた。風見家に出入りしているのを何度か偶然見かけたことがある。  その日初めて間近で見た蒼矢の印象は、イケメン、背が高くてスタイルが良くて陽翔と同じくらいコミュ力が高い――だった。そして温和な陽翔に比べて心なしかチャラそうではあった。  でも一瞬で惹きつけられものがあり、思えばその時から蒼矢のことは気になっていた。いやもしかしたら遠くから見かけた時からかも知れない。  それから度々陽翔の家で一緒になり、彼は思ったよりもずっと真面目で優しく誠実な男だと知った。彼は美術部の活動を真剣に取り組んでいて、イラストレーターを目指してると語ってくれた。前々から美術が好きだったおれもそれに感化されイラストを描き始めた。  おれたちはすごく気が合った。初めは陽翔と三人で遊んでいたが、そのうち二人で出かけるようにもなった。いつしかおれは恋愛感情として蒼矢を好きになった。  この想いはけして告白してはならない。  彼が女性にもてないわけがなかった。  彼女がいた話も聞いたことがあるし、時折陽翔の家には女子が数人いることもあった。クラスメイトか同じ部活の女子だろう。一緒に出かけても振り返られたり声をかけられてりすることも少なくない。  おれは苦しかった。  おれに向けられる笑顔や他愛ない触れ合いが。意識されていないからできることだろうと思っていた。  おれは追いつめられていた。  だから。   「蒼くんが好きだ、恋愛的な意味で。気持ち悪かったらそう言ってくれていい。もう会ったりしないから」    蒼矢の元を去る覚悟で告白した。  それなのに。 「ゆき、俺もお前が好きだ、勿論恋愛的な意味だ。先に言わせてごめん」  まさかおれの想いが叶うなんて。  その日からおれたちの関係は恋人同士になった。  おれたちは幸せだった。  例え他人(ひと)には言えなくても。例え他人(ひと)の前ではただの友人として振る舞わなくてはならなくても。  

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