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第63話
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おれは高三になり、志望大学を蒼矢のいるK大学芸術学部に決めた。蒼矢が四年、おれが運よく合格して入学する来年春からは芸術学部はI市桜の森に移転となる。
六月にI市の駅ビル六階の多目的ホールで芸術学部教授主催の展示会が行われた。各学科の教授お墨付きの学生たちのグループ展だ。
その初日おれは小学生の弟歩と、陽翔の三人で訪れた。
受付に立っている蒼矢は普段見慣れないスーツでばしっと決めていて思わず見惚れてしまう。
「蒼兄ちゃ〜ん」
見惚れていたせいで声をかけるのが出遅れた。歩はいち早く蒼矢に抱きついた。
「お〜あゆ〜来てくれたんだ〜」
つき合い始めてから家に来るようになった蒼矢と、小学生になって放課後や休日に家にいるようになった歩とは会う確率が高くなってすっかり打ち解けていた。おれや陽翔が相手をしないゲームをよく一緒にしていた。
歩を抱き上げおれたちのほうを見る。
「ゆきも陽翔もありがとう」
「グループ展おめでとう」
おれたちが二言三言話をしている時、後ろから一人の男がやって来た。
「蒼矢」
「鳥飼さん」
振り返ると見たことのある顔。陽翔の家の前で蒼矢と話しているを見かけたことがある。
「グループ展開催おめでとう」
おれのことは知らないだろうから無視されても仕方ない。おれを通り越して蒼矢に話しかける。
「ありがとうございます」
歩を下に下ろして丁寧に挨拶をする。
「蒼矢、僕たち中見てるよ」
陽翔が気を利かせてそう言った。『鳥飼』と呼ばれた男が、その時初めておれや陽翔に気がついたようにこちらを見て会釈をした。
「陽翔の従弟たちです。ゆき、こちらは俺たちの高校からの先輩で芸術学部のOBの鳥飼さん」
「そう、風見くんの」
陽翔に対しても態度が違うような気がする。蒼矢とはかなり親しげだ。
「こんにちは」
視線がおれの上から下を行き来するのを居心地悪く感じた。
(なんでこの人こんなふうにおれを見るんだ)
向けられた顔もなんだか。
「なんか変な顔!」
唐突に歩が言った。しかも結構大きな声だ。
(それはおれも言いたいことだけど!)
おれは慌てて歩の口を塞いだ。
蒼矢に向けられた笑顔よりもずっと嘘くさいような。顔は笑っているのに目は全然笑っていないようなそんな感じだ。歩もそれに気づいたのだろう。そして歩には少し人と違う力があって、彼の本質を感じ取った可能性もある。
「すみません、失礼なことを」
「いや、面白い子だね」
勿論そんなこと思っているはずもないだろう。表情の変化は本当に微小だったのに『怒り』のようなものが感じられた。
「失礼します。行くよ、歩」
更に何か言いそうな歩の口を塞いだままおれたちは会場の中に入った。
これが鳥飼と交わした最初の会話だった。
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