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第65話

 その日の夜偶然鳥飼との約束があった蒼矢は、どうせなら直接頼んでみればと提案した。何故かできれば会いたくないような気もしたが、自分の用件だから蒼矢には迷惑かけられないと思った。 「こんばんは。すみません、突然お……僕までお邪魔しちゃって」  洒落てるけど案外カジュアルなカフェバーだった。ドレスコードのある場所ではなかったことにほっとする。何しろ鎌倉で由緒ある家柄の蒼矢とBird Entertainment社長が会う店だ、どんな高級な店かと思ってしまうじゃないか。 「いいよ。人数が多いほうが楽しいし」  そう言った彼の目は笑ってはいなかった。 (やっぱり歓迎されてない?)  事前に蒼矢が連絡を入れているのだから、それなら断ってくれてもよかったのにと、内心溜息を吐いた。  どうぞ、と言われ鳥飼の前に蒼矢と並んで座った。 「仕事の話もあるからそれは勘弁してくれよ」 「はい」 (仕事の話? 蒼くんに?)  とりあえずそれぞれ飲み物を頼んだ。蒼矢と鳥飼はアルコール類、おれは烏龍茶にした。二人の時はおれに合わせて蒼矢はアルコールを飲んだことはない。 「きみは飲まないの?」 「僕まだ二十歳になってないので」 「そう?」  子ども扱いされたのか、くすっと笑われた。いちいち品定めするような視線に居心地が悪くなる。 「先にきみの話を聞こうか」 「はい……あの……」  これこそ子どもっぽい内容のお願いだ。しかもちょっと顔を合わせたくらいで会話らしい会話もしていないのに。  おれは掻い摘んで経緯を話した。 「たいした面識もないのに図々しいお願いとは思うんですが……」 「わかった、社で確認してみるよ。えっと……連絡先教えてくれるか? わかったら連絡する」 「ありがとうございます!」  普通に了承を得たことに安堵した。 (思ったほど感じ悪くもない?)  おれたちは連絡先を交換した。 「花邑……」 「ゆきほです」 「行帆くんか。風見の従弟だって言ってたね」 「はい」 「蒼矢とも仲がいいんだ? 大学でも一緒にいたし、こうやって蒼矢が頼みごとしてくるし」  ちらちらと蒼矢とおれの間を視線が行き来した。確かに友人の従弟であるだけの接点で、同じ歳でもないのに不思議に思うかも知れない。 「彼が中学生の時からの知り合いでよく陽翔の家で遊んでました。行帆とも友だちになって、陽翔抜きで遊んだりもするようになったんです」  当たり障りのない説明を蒼矢がしてくれた。 「そうなんだ、まあそういうこともあるか」  それで納得してくれたようでほっとする。  その後はさっき言っていた通り、仕事の話になった。おれは彼らが話している間ひたすら飲み食いしていた。これ以上鳥飼と話すこともないしそのほうがおれにとっても気持ちが楽だった。 

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