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第67話
「それは……ご迷惑では……」
たいして面識もない間柄で無理なお願いをしたのはこちらだ。おれのほうから断ることはできない。でもよく知らない相手と二人で食事するのはどうなんだ。
「全然。いつもぼっち飯で寂しいから、一緒に食べて貰えたら嬉しいんだけど」
にこっと見たことのない優しい笑顔。そんなふうに言われたら頷くしかない。
「じゃあ、ちょっとだけ」
指でちょっとを示した。
「ありがとう――どうぞ」
ドアを大きく開けておれを中に招き入れた。
「お邪魔します」
余りじっくり見るのも不躾だけど気になってちらちらと室内を見る。神経質そうな性格が現れたような綺麗に整った部屋だ。
「ここ座って」
ダイニングテーブルには既に二人分のセッティングがされていた。
(二人分……まさか最初からそのつもりだったとか?)
やや訝しげに思う。
鳥飼がキッチンに立っていそいそ支度をしているのを、全く似合わないなぁと後ろから眺めていた。
テーブルに料理を並べ、用意されていたグラスに鳥飼はワインを注いだ。
「きみも」
おれのグラスに注ぎそうになったので慌てて阻止する。
「おれまだ未成年なんで」
この間はなんとか取り繕っていたがうっかり素を出してしまった。
「そうだった! 真面目だね」
この間と同じようにくすっと笑われる。しかし今日は馬鹿にした様子もなく、
「ジュースあったかな」
と冷蔵庫を漁り始めた。
「グレープフルーツジュースでもいい? お酒を割るように買ってあったの、もうこれしかないな」
「はい。充分です。ありがとうございます」
タンブラーに注いでテーブルに置き、鳥飼はおれの前に座った。
鳥飼がワイングラスを片手で掲げ「乾杯」と言ったのでおれもそれに倣ってジュースの入ったタンブラーをカチンと合わせた。何に乾杯しているのかわからないけど。
鳥飼はワインを一口二口飲んだが、おれは緊張で喉が渇いていたので半分くらい一気に飲んでしまった。
「あ、そうだ。食べる前にこれ」
渡されたのは正に例のゲームだった。
「ありがとうございます! お金払いますね」
おれは誰もいない隣の椅子に置いたクラッチバッグから財布を出そうとした。
「いいよいいよ。社に見本として何本か置いてあったんだ」
「そういうわけにはいかないです」
「一緒に食事してくれるのがお礼ってことで」
「え〜」
納得がいかなかったが余りゴリ押ししても空気が悪くなるだろうと思った。
(あとで何かお礼になるようなことを考えるか)
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん」
おれは受け取ったゲームをクラッチバッグと一緒に隣の席に置いた。
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