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第72話

 薄っすらピンクの肌に濡れて赤く熟れた果実のような二つの突起。花のように散らばる噛み跡。腹や太腿はぬらぬらと濡れている。目は恍惚としていて、しどけなく半開きな口からは涎が滴っている。  おれは顔を背けた。  こんな姿が自分だなんて信じたくなかった。  目は開いているのに写真を撮られていたことに気づいてなかったなんて、どれだけ自分を見失っていたんだ。  何故撮ったのか、それをどうするのか。言いたいことは山程あるが、口にする気力はもうおれにはなかった。 「送ってく」  スマホをしまうとおれの腕を掴んだ。おれは促されるまま立ち上がった。 (あ……)  一、二歩歩いて違和感を感じた。鳥飼に散々責められた場所はまだ開いていて、そこから何かが流れ出るような感覚。下着とスラックスを濡らしていく。  男は初めてだと言った鳥飼。妊娠しない男の体内には残しても問題ないとでも思っているのか。おれは更に打ちのめされる思いだった。  車は自宅前に停まった。  おれは黙って助手席から降りる。運転席に乗っている男の顔はけして見ない。 「忘れ物」  しかしそう声をかけられては振り返えざるを得ない。彼は助手席側に身を乗りだして、クラッチバッグを差し出した。  おれは無言でそれを受け取るとさっと身を翻し門の中に入っていく。 「また連絡する」 「…………」   恋人か友だちのような別れ際の言葉に吐き気がした。  おれの後ろで車が発進する音がした。  気配がなくなったところで、手に持っていたクラッチバッグから鍵を出す。午後十一時、当然玄関は施錠されている。  その時不意に思い浮かんだことがあった。 (あ……ゲーム)  結局貰い損ねてしまったことに気づく。 (いったい……なんだったんだ、何の為におれは……)  悲しみが押し寄せてきて景色が涙で滲む。おれは慌ててそれを脱ぐうと、大きく深呼吸をした。  おれは笑顔を作り、ドアを開けた。 * *  あらから三度、例の画像を盾にされ、鳥飼と関係を持った。鳥飼はそれを蒼矢に送ると脅してきたのだ。  あの時以降薬を飲まされることはなく、おれは素面のまま乱暴に責め立てられた。  ただ痛いだけだった。  蒼矢に知られるのが怖くて鳥飼に従っていた。  でもそれにも限界がくる。  様子のおかしいおれを心配する蒼矢。何でもないよと明るく振る舞うおれ。  そして、おれは――蒼矢に触れられるのを避けるようになったのだ。  蒼矢のことは愛している。触れ合いたい。  でも駄目だった。 (こんな汚れた自分を……蒼くんに触れさせるなんてことできない)  やがておれの心に歪みが生じ、壊れていきそうになる。  おれは鳥飼との関係も、蒼矢との関係も断ち切ろうと決意した。    

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