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第77話
気がつくと身体に揺れを感じた。
どうやらおれは再び車に乗せられたらしい。鳥飼はおれを何処へ連れて行こうというのか。おれはもう目も開かず、口も開 けず、指の一本さえ動かせない。
やがて車は停まり、おれは鳥飼に担ぎ出された。
病院ではないだろうという直感。
鳥飼はおれが死んだとでも思ったのかも知れない。あるいは、このまま病院に連れて行けば自分のしたことが露見してしまうとでも思ったのだろう。そうなれば社会的地位を失うことになる。
衝動的にこんなことをしてしまうなんて、やっぱりおれの言ったことは正解だったのだ。
鳥飼はおれを無理矢理立たせそれから突き飛ばした。
急な斜面なのか止まることなくごろごろと転がっていく。木なのか岩なのかわからない何かにぶつかりながら。もう痛覚すらない。
(ごめん……あゆむ……おまえのたんじょうびなのに)
(ごめん……そうくん……あいしてる……でも、さよならだ)
――そして、背中や頭を強か打ちつけて止まった。
* *
「驚いたことにおれは再び意識を取り戻したんだ。最初は生きているのかと思ったんだけど、そうじゃなくて。半分水に浸かった傷だらけのおれの顔をおれ自身が見ていたんだ。ふわふわ浮かびながら」
そこだけ聞くとどうにもギャグっぽい。兄自身もそう思ったのかふふっと笑った。
しかし僕の『意識』も、隣にいる蒼矢も、重すぎる話に笑うどころではない。
「そこはH市の山中で、あの辺りには川があってキャンプをする人も多いという話を聞いたことがある。おれはそういう人に発見された。その後警察やら何やらが来ていろいろ調べたり、警察に運ばれて親が身元確認に来たり、それからやっと家に帰ることができて――それをずっと傍で見ていたんだ。勿論蒼くんがお通夜の日にいち早く来てくれたのも」
そうだった。まだいろいろと準備をしている時に蒼矢が来て、遺影の前に立っていた。
「そうだ……あの時顔の状態が酷いので見ないでやってくれとご両親に言われた……俺はそれでも見たかったけど、ご両親の気持ちを考えると無理は言えなかった」
その時の辛さを思い出してか蒼矢は苦しそうに言った。
(そうだったのか……だから、遺影を見て泣いていたんだ……)
僕の記憶はかなり曖昧だった。子どもだったということと、やはり兄の突然の死がショックだったんだろう。
「蒼くんおれの遺影を見て涙流してくれたね、蒼くんが泣くのをおれは初めて見たよ。今なら言えるね、おれの為に泣いてくれてありがとう」
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