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第79話

 どれだけシュールだろうと今は兄と話したかった。全部一人で喋っているようにしか見えないが。 「でも兄ちゃんは最後には僕の中から出て、自分でその、鳥飼さんを」  『殺そうとしたんだろ』と言いかけてやめた。大好きな兄に対してそういう言葉を使いたくない。 「うん。それだと歩が殺人犯になっちゃう。ぎりぎりのところで止めることができて良かったよ。実際歩の身体を使わずにどれだけのことかできるのかはわからなかったけど。まさか実体化するとは」  あはははと兄が笑う。空笑いだろう。それはすぐに消えてふっと溜息をついた。 「でも、蒼くんには見られたくなかった。あんなおれ」  僕はまた思い出した。あの時の兄と蒼矢を。互いを繋ぎ止めたくて伸ばされた手を。  今も兄の蒼矢への想いが流れて込んできて切なくなる。 「ゆき……」  兄の名を呼んで蒼矢は膝の上に置いた僕の手の上に手を重ねた。 「俺を……俺と歩を守ろうとしてくれたんだろ」 「うん……確かにおれは歩を助けたかった。でも突きつめればみんなおれのせいだし。蒼くんのことは鳥飼さんに関わらせたくなかった。そういう想いはあったけど、やっぱりあの人に対する恨みも強かったかも。とにかくあの時のおれはいろんな想いでぐちゃぐちゃだった」 「……俺のせいだな。俺が鳥飼さんを紹介したから。俺がゆきがそんな状況にいたのに気づかなかったから……いや、何かいつもと違うと気づいていて、何も訊かなかったから。いつか話してくれるかと……俺はただいつでも待ってるって、ゆきに伝えたくてただ優しくするだけで……何もしなかった」  ぎゅっと手を握られ蒼矢の苦悩が伝わる。 「蒼くん。蒼くんのせいじゃないよ。おれが不用心だったんだ。自分に関わる人間であんな行動を取る人間がいるなんて。おれはそれまで優しい人たちの中で暮らしていたんだって実感したよ。それにもし蒼くんが訊いてもたぶん本当のことは話さなかったよ」  いったいどうすれば良かったというのか。  蒼矢が鳥飼を紹介しなければ良かったのか、兄が一人で鳥飼のところに行かなければ良かったのか。兄が蒼矢に全てを打ち明けていれば……。 (僕が……あのゲームを欲しがらなければ……!)  恐らく今それぞれの胸にそれぞれの後悔が過っているだろう。しかし、もうすべては過ぎ去ってしまったこと。変えることのできない事実なのだ。 「行帆、お前はこれからどうなるんだ?」

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