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第83話

 大学で顔を合わせても講義と課題の合間に話せる内容でもないし、僕自身の気持ち的にもまだ心を落ち着けて話せないような気がした。  テストや課題提出が七月終わりのぎりぎりまであり、八月に入ってから本格的に夏休み。  祈から連絡がきたのは夏休みに入ってすぐだった。 『ねぇねぇ歩のうちに遊びに行ってもいい? お泊りで!』  たぶん事の顛末を聞きたくてうずうずしていたのだろう。誘い方が可愛いらしく、思わずくすっと笑ってしまう。 (そうだ! もうすぐ祈の誕生日じゃん!)  当日は家で祝って貰うかも知れないとその翌日に日にちを設定した。  何故翌日に設定したのか。  前日だと二十歳前なのでまだ飲めないからである。  陽翔がちょっとしたパーティー用のオードブルを用意してくれるというので、僕もそれを手伝った。アルコールは近くのスーパーで缶チューハイを買ってくる。  バイトを早めに切り上げさせて貰い、午後六時僕の部屋で二人で乾杯をした。 「祈、誕生日おめでとう!」  チューハイの入ったグラスをカチャンと合わせる。 「歩〜ありがとう〜」  祈は一気に半分くらい飲むとテーブルに置いて僕にぎゅっと抱きついてきた。 「嬉しい〜こういうの初めて。お泊りとかも初めてだよ〜」 「え? そうなの?」  なんとなく意外だった。祈は僕よりもずっと交友関係が広いと思っていた。  僕は兄のことがあってから、何処かで自分一人が楽しんでいてはいけないような気がして、余り他人と深くは関わってこなかった。友人はいなくもなかったが、泊まりに行ったり旅行に行ったりなどもしたことがなかった。 (祈もそうだったのかな……)  祈はあの不思議な力のせいで他人と深く関わってこなかったのかも知れない。  僕はまた親近感を覚えた。 「すごい綺麗だな〜食べていい?」 「陽ちゃんが作ってくれたんだ。僕もちょっとだけ手伝った」 「嬉しい〜」  僕らは一頻り食べたり飲んだりした。  少し落ち着いたところで、 「祈、今回のことありがとう。祈がいなかったらもしかしたら僕は……」 (今頃こうやって祈の誕生日を祝ってなかったかも……) 「オレは……導いただけだよ。助けたの月城さんだろ」  照れたように言う。 「僕の居場所がわかったのってあのお守りのお陰だよね。あれっていったい……」 「あーあれは、オレの髪をちょっと切って入れておいたんだ」 「え???」 「歩がオレを信じて呼んでくれただろ。歩くらい力があればオレの一部を介して伝わってくると思ったんだ」 「へ、へぇ〜」  なんだかよくわならないが祈はそういうこともできるんだと納得した。 (祈って本当に人間なのかな。もし人間じゃないとしても友だちはやめないけど!)  それから僕はこれまでのことを掻い摘んで話した。  

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