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第84話
「……お兄さん辛かったろうね……自分の本質を曲げて鳥飼さんに復讐しようとするなんて。でも……やっぱり最後は歩のことを守ったんだ……優しい人だったんだね」
すべてを話終えると祈はそうしんみりと言った。そして労るように僕に微笑みかける。
「歩もお疲れ様だったね」
こんなことを話して引かれないのは渦中の蒼矢さん、そして家族くらいなものだろう。同じような力を持って共有できることが酷く幸せな気がした。
「兄ちゃんは……成仏したのかな……」
僕は宙 を見上げ、きらきらと光になって消えていった兄を想った。
ああいう状況なら当然成仏したと思うじゃないか。
祈は小さく「あー」と言った。語尾は下げ気味、ついでに眉尻も下げた。
「えっな、なに?」
(祈のこの表情! 絶対何かある!)
「まさか兄ちゃんまだ成仏してないとかっ」
「成仏……はした。でもいるよ」
『いるよ』と言われ、僕は室内を見回して、それから自分の中を探ってみた。
しかし何の気配も感じない。
それなのに祈は僕に向って大きく頷いた。
「うん! そう! 歩の中にいる!」
「ええーっっでもっでもっ」
僕があわあわしていると、
「だよねーだよねー」
彼はそう同意した。
「おれもこういうのは余り見たことない例かな。お兄さんは成仏して歩の守護霊に高速転身したんだよ」
うんうんと一人納得しているように頷く。
「しゅごれい……?」
「そうそう」
「それって、今までとは違うの?」
また僕の身体を使ったりするのだろうかと考える。その考えを読んだように祈は説明をした。
「うん、今までみたいに歩の身体を使ってってことはないよ。お兄さんとしての自我はもうないんだ。ただ歩を守っている。何か危機があった時には、夢で知らせたり然りげ無く助けたり……とかはあるかも知れないね」
「そう……なんだ」
「お兄さん、本当に歩のことを愛してたんだねぇ」
兄としての『自我』がないことに淋しさを感じたけど、祈のその言葉が嬉しくてにこっと笑みを浮かべた。
「ところで――えっそれでそれでっ」
急に食い気味に顔を近づけてくる。
「それでっどうなったのっ?!」
どうやら急に話題を変えたらしく、なんのことを言っているのかわからなかった。
「え? 何が?」
「だーからー、歩と月城さんはその後どうなったの?」
「どーなったのって……」
僕は興味津々の顔を避けて横を向いた。
「だって、月城さんは『触れたいほど歩に惹かれてる』って言ったんだろ? 歩だって月城さんのことずっと好きだったんだろ? だったらさ」
「待って待って」
僕は慌てて祈の言葉を遮った。
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