84 / 100

第84話

「……お兄さん辛かったろうね……自分の本質を曲げて鳥飼さんに復讐しようとするなんて。でも……やっぱり最後は歩のことを守ったんだ……優しい人だったんだね」  すべてを話終えると祈はそうしんみりと言った。そして労るように僕に微笑みかける。 「歩もお疲れ様だったね」  こんなことを話して引かれないのは渦中の蒼矢さん、そして家族くらいなものだろう。同じような力を持って共有できることが酷く幸せな気がした。 「兄ちゃんは……成仏したのかな……」  僕は(ちゅう)を見上げ、きらきらと光になって消えていった兄を想った。  ああいう状況なら当然成仏したと思うじゃないか。  祈は小さく「あー」と言った。語尾は下げ気味、ついでに眉尻も下げた。 「えっな、なに?」 (祈のこの表情! 絶対何かある!) 「まさか兄ちゃんまだ成仏してないとかっ」 「成仏……はした。でもいるよ」 『いるよ』と言われ、僕は室内を見回して、それから自分の中を探ってみた。  しかし何の気配も感じない。  それなのに祈は僕に向って大きく頷いた。 「うん! そう! 歩の中にいる!」 「ええーっっでもっでもっ」  僕があわあわしていると、 「だよねーだよねー」  彼はそう同意した。 「おれもこういうのは余り見たことない例かな。お兄さんは成仏して歩の守護霊に高速転身したんだよ」  うんうんと一人納得しているように頷く。 「しゅごれい……?」 「そうそう」 「それって、今までとは違うの?」  また僕の身体を使ったりするのだろうかと考える。その考えを読んだように祈は説明をした。 「うん、今までみたいに歩の身体を使ってってことはないよ。お兄さんとしての自我はもうないんだ。ただ歩を守っている。何か危機があった時には、夢で知らせたり然りげ無く助けたり……とかはあるかも知れないね」 「そう……なんだ」 「お兄さん、本当に歩のことを愛してたんだねぇ」  兄としての『自我』がないことに淋しさを感じたけど、祈のその言葉が嬉しくてにこっと笑みを浮かべた。 「ところで――えっそれでそれでっ」  急に食い気味に顔を近づけてくる。 「それでっどうなったのっ?!」  どうやら急に話題を変えたらしく、なんのことを言っているのかわからなかった。 「え? 何が?」 「だーからー、歩と月城さんはその後どうなったの?」 「どーなったのって……」  僕は興味津々の顔を避けて横を向いた。 「だって、月城さんは『触れたいほど歩に惹かれてる』って言ったんだろ? 歩だって月城さんのことずっと好きだったんだろ? だったらさ」 「待って待って」   僕は慌てて祈の言葉を遮った。  

ともだちにシェアしよう!