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第85話

 今まで掻い摘んで話した中では実は自分の蒼矢に対する気持ちははっきり言っていなかった。それなのに何故祈は僕が蒼矢さんを好きだと言ったのか。 「僕、今蒼矢さんのこと好きとか言ってないよね?」  祈はきょとんとしている。 「そんなの、今の話を聞く前から知ってるよ」 「え?」 (なんでっ?! 僕のほうがびっくりだ!)  僕はよっぽど変な顔をしていたのか彼は大笑いし始めた。それは暫く続き笑い終わると目尻に涙が溜まっていて指先で拭っている。 「なんて顔してるのさ。歩自分でわかってないの? 出会った頃から月城さんの話ばかりしてたじゃない?」 「そ、そんなにしてたっけ?」  そんなにしていた自覚はなかった。 「してたよ〜月城さんのこと話す時は好き好きオーラ出てたし、それにお兄さんが月城さんに迫った時に言っていた歩の気持ち、あれ嘘じゃなくて本当に歩の気持ちなんだろ。お兄さんのほうは歩と気持ちや行動を共有できていたんだよね?」  ここまで言い当てられていて否定するのもなんだか白々しい気がする。 「うん……まあそうなんだけど」  白状してしまった。 「でしょー!」  満面の笑み。その顔を見たら隠すことなんてないのかなと思えた。 「祈って偏見ないんだね」 「偏見?」 「同性同士の恋愛とか、気持ち悪いって思う人もいるから」 「うん、前にも言ったと思うけど、オレそういうの偏見ないから」 (ああ、そういえば……)  僕の誕生日パーティーで祈が言ったことを思い出した。 『オレそういうことには偏見はないから。安心して……』  あの時は本当に僕を安心させる為だけに言ったのかもって思ってたけど、本音だった。 「だって、オレもだから。オレの大事な人も男の人だから」 「え? そうなの」 「うん。歩だから言うんだよ。オレたち一緒だから」  祈は自分の唇に人差し指を立てた。 「オレたちの秘密だ」  そういえばあの時『歩も』と祈は言った。聞き間違いかと思っていたけど、あの時にはもう僕の気持ちに気づいていたんだ。 「祈の大事な人って……」  僕の脳裏に祈の叔父の顔が浮かんだ。 「人間?」  祈の叔父が人間ではないような気が前からしていてつい口が滑った。しかも祈の相手が叔父だなんて祈は一言も言っていないのに。  あはははと祈は笑った。 「どうかな? またそのうち話すよ。でも今は、オレのことよりも」  そして話題はまた最初に戻る。 「歩と月城さんはどうなったのっ。当然おつき合いするようになったんだよなっ」  互いに互いを想う気持ちはもうわかっている。だったらそうなって当たり前と彼は思っているのだろう。  でも、そう簡単にはいかないのだ。 「えっと……」  僕は言い淀んだ。

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