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第87話
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兄が亡くなって『俺』は思った、これ以上両親を悲しませたり心配させてはいけないと。『兄』のように『良い子ども』でないといけない。『俺』のやんちゃさは時には両親、特に母親に心配をかけさせていたから。
しかし『僕』は到底『兄』には慣れず、誕生日も祝われない『僕』は次第に両親に対して歪みのようなものが生まれていた。
斯くして他人とは余り深く関わらない大人しい『僕』がで出来上がった。今ではこれか素なので、もう子どもの頃のように振る舞う自分はいないのだ。
* *
「ご両親に心配をかけない為に自分を変えていったのかと思うと胸が痛んだよ」
「……でも、今はこれが『僕』なんです。演じてるわけでもないので、蒼矢さんが胸を痛めることはないんです」
「そうか……」
彼は少しだけ淋しそうに笑った。
「中学生のきみも高校生のきみも見ることができなかったのは残念だったよ。俺はいつもゆきの命日の前後に行ってきみたち家族とはかち合わないようにしていたから……不義理だと思われても仕方ないんだけど」
「不義理だなんて思ってませんよ。僕らはいつも蒼矢さんがお墓参りに来てくれていることに気づいてましたから。それに――やっぱり僕らと会うのは兄ちゃんを思いだすから辛いのかなって」
「そうだね……ゆきがいてあゆがいて時にはお父さん……は余り会わなかったけど、お母さんがいて……楽しかった時のことを思い出す。あゆは……年々ゆきに似てくるんじゃないかと思うとやっぱり顔は見ることはできなかったよ」
「結局そんなに兄ちゃんには似なかったですけどね、僕はあんなに綺麗じゃないし」
軽い口調で言いながらも心は少し重かった。
似てたら良かったのだろうか。両親にとっても蒼矢にとっても。完全に身代わりになれたほうが良かったのだろうか。
(ううん、死んだのが兄じゃなくて……)
またネガティブになっていると、蒼矢が僕の頰に手を当ててじっと見つめてきた。
「やっぱり兄弟だから少しは似ているよ」
再会してから時々見つめてくる眼差しはやはり僕の中に『兄』を探していたからだったのか。
そう改めて思う。
僕自身は本当に似ていないと思うのに、兄が亡くなった年齢に近づくに連れて皆が僕の中に『兄』を探しているような気がして、居たたまれないなかった。
(蒼矢さんもやっぱり……)
「別にきみがゆきと似てきたからとか、ゆきと兄弟だから身代わりにとか。そう思ってあゆのことを好きになったわけじゃないよ」
「え……」
瞳を覗き込んで僕の心を透かして見たかのように蒼矢は言った。
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