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第95話
フルーツ盛りだくさんのケーキには『Happy Birthday AUMU』と書かれたチョコプレート。これを蒼矢が書いたところを想像する。
(なんか、可愛いかも)
『2』と『1』の蝋燭が挿さっている。子どもの頃は年の数の蝋燭を挿すのが普通だった。
(まあ、二十一本蝋燭挿さっていたら、せっかくのケーキが穴だらけだけど)
それを想像して一人可笑しくなっていると、隣に蒼矢が立って着火ライターで蝋燭に火を点けた。そしてリモコンで室内の灯りを消した。
蒼矢の顔は僕のすぐ隣にあり、暗い世界で蝋燭の炎だけが僕らの顔を浮かび上がらせる。
二人だけの世界のように思えた。
自分がただの何も持っていない大学生だとか、蒼矢が世の独身女性を魅了するスパダリだとか、そういうことを何も考えなくていい。
そんな二人だけの世界。
「歩」
耳元で尾骶骨を揺さぶるような声で名前を呼ばれる。
「さぁ、火を消して」
僕は二度蝋燭に息を吹きかけ火を消した。
「二十一歳おめでとう」
パッと灯りが点き元の世界に戻った。
「ありがとうございます、蒼矢さん」
「ケーキはあとでね」
後方から手が伸びスッとケーキが浮かび上がる。それを持ったまま彼は器用に僕の頭上にキスを落とした。
ぶるっと全身が震える。
(甘いっ甘過ぎるよっ蒼矢さんっ)
冷蔵庫に仕舞われたそのケーキよりもきっとずっとずっと甘い。
フルートグラスには薄い金色のシャンパン。細かい泡が煌めきながら水面へと上がっていく。
「おめでとう、あゆ」
軽くグラスを触れ合わせばカシャンと快い音が響く。
「もう、何回目ですか」
言われる度にこそばゆい。
「何回言ってもいいだろ……また誕生日を祝えるようになったんだから」
真剣さと甘さを混ぜ合わせた瞳にどきどきする。
僕のことを僕以上に真剣に考えてくれてるようで嬉しい。
「あんまり一気に飲むなよ。けっこうクルから。ゆっくり味わうように飲むんだよ」
「さすが! 大人ですね〜」
軽く返さないといちいち心臓が煩くてしょうがない。
そんなふうにして他愛もない会話をしながら食事を楽しんだ。
昨年二十歳の誕生日に初めてアルコールを飲んでから今日までそれほど飲む機会もなかった。でもその数回で言えることは。
(僕はたぶんお酒に弱い!)
蒼矢が用意したのだろうから恐らく高級なシャンパンなのだろう。初めて口にするシャンパンは彼の教え通りゆっくり味わったし、実は半分も飲んでもいない。
それなのに身体が熱くて頭がふわふわするような感覚がする。
食事の後はシャワーを浴びてから寛ぐことになって、蒼矢は僕に先を勧めた。しかしどう考えてもすぐには無理な気がして、蒼矢に先に行って貰うことにした。
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