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第99話

 ダイニングテーブルでは向かい合って食事をしていた。今は三人がけくらいのローソファーに腕が触れ合うくらいの位置に座っていた。 (え〜なんでこんな近くに)  広い部屋でこんなにせせこましく密着しなくてもいいのではないか。  石鹸の香りが鼻を擽るくらいに。 (そういえば……僕も同じ匂いしてるんじゃない?)  ふと考えたことにまたどきどきしてしまう。 (蒼矢さんと同じ匂いって……なんか、恋人感ない?) 「あゆ、お誕生日おめでとう」  自分の忙しない心臓の音が聞こえないかと思っているのに、蒼矢のほうはそんなふうにしれっと言った。 (全然何とも思ってないみたいなっさすが大人ですっ) 「蒼矢さん、また言ってる」  自分だけがどきまぎしているのを悟られないように軽く返した。 「お祝いは何度言ってもいいだろ、さあどうぞ。きみの口に合うといいんだけど」 「いただきます」  僕の為に作ってくれたケーキを前に丁寧に手を合わせる。一口分フォークで掬って口の中に入れた。 「……っ美味しいっ」  口の中に広がる多幸感。蒼矢の愛情の味がするような気がした。 「そう、良かった」  ほっと溜息を漏らす。蒼矢でも自信がないこともあるらしい。僕の反応に嬉しそうな笑顔を浮かべ、思わずきゅんとなってしまう。 「まだあるから好きなだけ食べて」 「はい」  一口一口ゆっくりと味わうように食べる。  幸せを感じながら。 (そうだよ……ずっと……)  蒼矢との恋なんて叶うはずないと思っていたんだ。言ってはいけない気持ちなんだと。蒼矢は兄のことを今でも思っているのだと。  僕は絶対に兄には敵うはずがない。 (そう……思っていたんだ、だけど)  蒼矢から告白してくれたんだ。そして、僕もそれにやっと応えることができた。 (僕らは恋人同士になったんだ……それだけで、幸せなことだ)  だから。  蒼矢が大人で僕だけがどきどきしてるんじゃないかとか。僕が子ども過ぎて魅力がないんじゃないかとか。  叶わないと思っていたあの頃に比べたらきっと贅沢な悩みなんだ。 (僕らはまだ始まったばかり……ゆっくりやっていこう)  ケーキを食べ終えカシャと小さな音を立ててフォークを皿に上に置いた。 「あれ」  ふと気づくと、もう一つの皿のケーキは変わらずそこに載ったままだった。  顔を隣に向けると蒼矢と目が合った。どうやらずっと僕を見ていたらしい。 「蒼矢さん食べないんですか?」  それには答えず、 「――あゆ、ついてるよ」  と言ったかと思うと、蒼矢の顔が近づいてきて口の横をペロリと舐められた。 「えっ」  一瞬何をされたのかわからなかった。頭の中でスローモーションのように思い返し、それから舐められた口の横を指で触れた。 「ああ、甘いな」

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