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第6話
次の日の朝は最悪だった。
結局眠れたのは二、三時間程度で睡眠不足のせいで身体が鉛のように重たい。それに加え眩暈も酷く、頭のなかで生クリームを混ぜられているようにぐるぐる回っていた。
「潤、顔色悪いわよ」
「……大丈夫」
「昨日食べてなかったでしょ? せめて朝ご飯だけでも食べないと倒れちゃうわよ」
「へーきだよ。いってきます」
母親の心配を無視して家を出た。
ところてん列車の規則的な揺れがからっぽの胃を揺さぶってさらに気持ち悪くなる。いつもなら無数の嫌悪の視線が気になって仕方がないのに、それどころではない。
体温も低いようでまったく暑さを感じない。むしろエアコンの空調が寒く感じ、腕をすり合わせ温めていないと凍ってしまいそうだ。
会社の最寄り駅に転がるように降りて、人波に流されるまま会社へと向かう。真夏の陽射しが暖かく感じられた。
ルーティン通りなら従業員用のトイレで着替えを済ませるのに今日は汗一つかいていないので必要ない。その分、いつもより早く経理部に向かうことができる。
(一秒でも早く座りたい)
段々足もとが覚束なくなり、壁を伝っていないと倒れてしまいそうだ。視界がぼやけ、ここが本当に経理部なのかもわからない。
「おはようございます」
「……おはよ」
「顔色悪いですよ」
「んー」
霞む視界で目をよく凝らすと声の主が郡司だとわかった。
目を開けているはずなのに視界に映るものに現実感がなくフレームに嵌められた映画を観ているようだ。
「本当に大丈夫ですか?」
肩を強く掴まれ、踏ん張る力がなくぐらりと身体が前に傾く。
「佐久間さん!?」
郡司の悲鳴を最後に潤の意識はそこで途絶えた。
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