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第10話

 家に帰ると郡司からもらったレシピ本を参考に母親が料理を作ってくれていた。  豆腐ハンバーグ、レタスで巻いた春巻き、ゆで卵のサラダ、薄切りにした大根を皮にした餃子など品数はいままでと変わりない。  素材を置き換えているがだどれもが絶品だった。やはり薄味な気がするがそのうち慣れるだろう。  「郡司くんは本当にいい子ね」  「仕事もよくできるよ」  「几帳面そうよね。これ見て」  手渡されたレシピ本には付箋が貼ってあり、達筆な字でメモが書いてあった。「塩コショウを入れすぎないように」「こめこ油やアマニ油がおすすめ」「味付けは薄目に」など事細かい。郡司の性格を物語っている。  これだけ丁寧に書いてあるということは、このレシピ本の料理を一通り作ったのかもしれない。  こんなに手間暇かけることをただの会社の上司にするだろうかと考え、はたと気づく。  もしかして潤に取り入って昇級をしようとしているのだろうか。  昇級するには実力が必要だが、同時にコネもいる。上司に媚びへつらって気に入ってもらえば推薦してもらえ、エリートコースへまっしぐらだ。  (そういうことか)  しっくりきた答えは胸に穴を開け、風通りをよくした。  郡司は入社してから女性関係のトラブルに巻き込まれエリートコースから外れかかっている。それを挽回したいと思うのは普通だ。  でもそれなら郡司の昇級試験に一言添えてあげよう。そして健康な身体を手に入れてチビ、デブ、ハゲ、持病ありと特大四点セットを回避してやる。  決意をより強く固め、潤は咀嚼の回数を数えることに専念した。
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