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第13話

 「……は?」  郡司の口からものすごいワードが放たれた気がする。それとも聞き間違いか。セックスじゃなくてシックスって言ったんだ。文脈が繋がらないけど。  「セックスじゃわかりませんか? エッチしましょう」  やはり聞き間違いではなかった。セックスよりエッチと言われる方がニュアンスがエロく感じてしまう。  思わぬ単語の連続打撃に脳がノックアウトされてうまく処理できない。  いつも書類を睨んでいる黒い瞳が色っぽく細められる。シャツとインナーを脱ぎ捨て、鍛え上げられた腹筋が露われるといよいよまずいことになったと冷や汗が背中を伝う。  郡司が一歩近づくたびに後ろに下がった。この距離を詰められたらさっき引いたはずのラインを越えてしまいそうで怖い。  「エッチなら運動が嫌いな人でもできますよ。だって気持ちいいですから」  「それは恋人同士がする行為であって、おれたちはただの上司と部下でしょ?」  「男同士だから妊娠する危険もないし問題ないですよ」  「問題大ありだよ!」  前のめりに身体を傾け、鼻息荒く反発した。  「男同士でできるわけないよ。だって……ないし」  言外に言っても頭でその単語を発してしまい頬が熱くなる。年齢=付き合ったことがない潤にとって刺激的な単語だ。  いつの間にか握っていた拳には汗が滲んでいる。  郡司は不適に微笑んで、潤の巨体を抱き締めた。  「男はここを使うんですよ」  尻を揉まれ顔に血が集まる。まさか排泄する器官を使おうというのか。  「ここ。よく覚えてください」  指の腹で奥まった箇所を撫でられてぞわりと肌が粟だつ。  郡司の素肌の胸板に顔を押しつけるとどくどくと心臓が脈を打っている。郡司も緊張しているのだ。こんなこと通常の彼なら言うはずがない。  (そこまでして昇進したいんだ)  打算的、と郡司は言っていた。潤に取り入って評価を上げてもらおうとしているのだと確信した。  (こんなの枕営業じゃん)  心の伴わないセックスをして楽しいのだろうか。いくら潤のダイエットの手助ける名目はあるにしろ、ここまでしなくても郡司ほどの実力なら確実に昇進できるだろうに。  それともホテルを牛耳る社長になりたいのだろうか。そう考えると納得がいく。  「嫌がらないんですね」  「……ビックリはしてる」  「普通、引きません?」  そう言われればそうだ。嫌と言うより潤を昇進の踏み台にしようとしていることが悲しい。  じゃあ告白でもされたらよかったのだろうか。  (まさか)  こんなデブを誰も好きになってはくれない。  「引きはしないけど」  「じゃあオッケーということですね」  子どもみたいにくしゃりと笑った郡司に顎を掴まれて唇が重なった。  ピントの合わない視界のなかで、郡司の長い睫毛がやけにはっきりと映る。  舌を絡めとられくちゅくちゅと水音が響く。吸われたり甘噛みされたりと繰り返され、酸欠で頭が回らない。  (これいつ呼吸できるんだ?)  初めてのディープキスに困惑しながらも、粘膜の接触が気持ちよかった。夢中になっていると身体に力が入らなくなり郡司の胸板に縋った。  「鼻で呼吸するんですよ」  「はぁはぁ……そ、そうなんだ」  やはり郡司はモテるだけあって手慣れている。  潤の身体が火照ってきて汗をかいていた。さっき風呂に入ったばかりなのにシャツがしっとりと濡れている。  「ごめん。汗臭いよね」  「そんなことないですよ」  「絶対臭う」  離れようと腕を突っぱねたが力強く抱き締められてしまった。ふわりと香る柑橘系の香りにどぎまぎする。  「ベッド行きましょ」  「えっ、でも」  「それともソファがいいですか?」  「本当にするの?」  「セックスは有酸素運動と無酸素運動のバランスがとれてカロリーを消費しやすいんです。だから気持ちよくて痩せられて、一石二鳥なんです」  「そうじゃなくて……郡司くんは本当におれでいいの?」  潤の問いかけに郡司は目を見張り、そしてすぐ細めた。  「佐久間さんじゃなかったらここまでしませんよ」  「それって」   昇進試験のときにちゃんと推薦しろということだろう。  「……じゃあベッドで」  郡司はにんまりと笑うと潤の膝裏に腕を回して抱えられた。  「え!? なに?」  驚いている潤をよそに郡司は八十キロある巨体を軽々とお姫様抱っこした。バランスを取るために郡司の首に腕を回すとキスをされ、あまりの甘さに目が回る。  「重くない?」  「鍛えてるんで大丈夫です。それに二度目ですし」  「……やっぱり倒れたときも郡司くんが運んでくれたんだね」  「これくらい楽勝です」  郡司はやせ我慢をしている様子はない。まさか自分が抱っこされるなんて思ってもみなかった。しかも二度目なんて恥ずかしすぎる。  恭しく潤をベッドに下ろした郡司が覆い被さられてどきりと心臓が跳ねる。  二人分の体重に耐えかねるようにスプリングがぎしぎしと鳴った。  啄むようなキスをされ、閉ざした唇に舌がとんとんとノックをされる。快楽を知ってしまった唇は簡単に開き、舌を受け入れて絡め取られた。  キスをしながら郡司は潤のシャツをたくしあげて、わき腹の分厚い肉を摘まむ。  萩原にいつもされていることなのに郡司の手に触れられているとなぜかぞわりと寒気に似た感覚で肌が粟立った。  「……デブだろ」  「いつも萩原さんが触ってましたよね」  「あいつデブ専だから」  「一日でも早く痩せましょう」  郡司が眉間の皺を深くさせ、なぜか怒っているような表情になった。  (そんなに太ってたかな)  着やせするタイプではないが郡司の想像以上に太っていたのかもしれない。  わき腹を撫でていた手が下へと降りていき、潤のズボンに手をかける。  「一回の射精で七カロリー消費できるんですよ」  少し反応を示した屹立が布を押し上げた。射精、なんて卑猥なワードが飛び出したことで想像してしまったからだ。  郡司はズボン越しで屹立を撫でたあと、潤のズボンを脱がした。露わになったそこは固くなっている。  「あ、ちょっと」  「ちゃんと見せてください」  潤の抵抗も虚しく、郡司は膝の間に身体をねじ込みまじまじと屹立を眺めた。  見られているだけなのに興奮している。視線を注がれた性器がひとりでにぐんと天を仰いだ。  躊躇もせず郡司は口に含み、舌で丹念に舐め始める。くぼみや亀頭を舌でぐりぐりと押されると下肢がびくりと跳ねる。自慰とは比べものにならない刺激に鼻にかかるような声がでて、たまらず口を抑えた。  「声ちゃんと聞かせてください」  「気持ち悪いだろ」  「すごく興奮します」  「そんな……あっ、あぁ、ンあっ」  潤が言い終わるより先に再び舐め始め、刺激に声をあげた。  強く吸い上げられ釣られるように腰が動く。  女性陣の人気をかっさらい、真面目でクールな郡司にフェラされている。申し訳ない背徳感と自分だけだという特別感に感情が天秤のように揺れた。  先を尖らせた舌が亀頭の窪みをえぐられ、先走りが溢れだす。強すぎる快楽は辛い。  視界がかちかちと点滅をし始め、限界がすぐそこまで迫っていた。  「だめ、イくっ、あっ、離して」  「このまま出してください」  「あ、だめっ、本当」  「いいから出せよ」  「あっーー」  根元から強く吸われた拍子に堪えきれず郡司の咥内に射精してしまった。一滴の凝らず飲み込もうと性器を丹念に舐められ、達したばかりの身体にはそれすらも感じてしまう。  全力疾走したときのような全身の気だるさがあった。  「これで七カロリー消費ですね」  口の端に残っていた精液を舌で舐め取った郡司が不適に笑う。もう言い返す気力もなく、だらりとベッドに沈んだ。  (初めてフェラされた。しかも自分の部下に)  理性が戻ってくると後悔の波が押し寄せてきた。さすがにこれはやり過ぎではないだろうか。  「じゃあ次はこっちですね」  郡司が潤の尻のさらに一番奥まった箇所を撫でた。  「な、ななななに?」  「セックスするならちゃんと慣らしておかないと」  「そういう意味じゃなくて」  快楽に犯された脳はちゃんと言葉を紡ぐことができない。  郡司はベッドサイドテーブルの引き出しからローションを取り出し、潤の尻に垂らした。ひやりとする感触ですらイったばかりの敏感な身体は感じてしまい、甘い声が漏れる。  怯える潤を宥めるようにつぼみを撫で、呼吸が落ち着いてきたのを見計らって中に挿入ってきた。  想像していたより痛みはない。どんどん奥へと進んでいくと苦しさが勝り、目を瞑って耐えていると耳殻を舐められた。くちゅくちゅとダイレクトに鼓膜を振るわせる水音にまた声が漏れる。  「んんっ、あっ……」  「痛い?」  首を横に振ると郡司はほっとしたような表情に変わった。郡司の汗が滲んだ毛先から水滴が頬に落ちて、むっとする雄の匂いに興奮する。  こんな太った身体を晒しても郡司はのぼせたように頬を赤くしてくれるのが嬉しい。  例えそこに郡司の思惑が眠っていたとしても指や唇で愛撫をしてくれる熱に溺れていたい。  指が増やされ、ゆっくりと中をかき混ぜられ、ある一点を爪先で掠めたときぴりっとした刺激に目を見張った。  「えっ、なに、これっ……あぁっ!」  「ここですね」  執拗にその一点を押され、身体がしなる。苦しさの代わりに快楽が潤の身体を蹂躙し始めた。  「あッ、あぁ、ンん」  性器が再び固くなり始め、亀頭から先走りが溢れている。指は三本になり、潤の中を押し広げた。  郡司が身体を起こし、取り出された性器のあまりの大きさに言葉を失う。こんな凶器が潤の中に挿入るのだろうか。  「もう挿れていいですか? 我慢できない」  色気を含ませた掠れる声に唾を飲み込む。  「……いいよ」  一度だけキスをされると郡司の性器が潤の中に挿入ってきた。指とは比べものにならない質量に息を詰めると郡司は眉を顰める。  「もっと力抜けますか?」  「はぁっ、んあ、できない」  痛くはないが苦しくてうまく呼吸ができず、四肢に力が入ってしまう。  「じゃあこっちに集中してください」  郡司は潤の屹立を上下に扱き始めた。動きに合わせて先走りが潤の腹に飛び散る。  性器への刺激に力が抜け、郡司はさらに奥まで腰を進め、ぴったりと最奥まで貫かれた。  「オレの動きに合わせて腰を揺らしてください」  ばちゅんと肌がぶつかる音とともに郡司の性器に犯される。一定のリズムで揺れているがそれに合わせるなんてできない。  悦に溺れる身体はされるがままだ。  「あっあ、……んあ!」  「仕方がない人ですね。最初だからやってあげます」  潤の腰を掴み、郡司の動きが荒々しくなる。一番太り部分が弱いところを的確に突き、悲鳴のような嬌声をあげた。  (セックスってこんなに気持ちいいんだ)  思考が微睡み、もう快楽を求めることしか考えられない。与えられる刺激に身を委ね、何度も声をあげた。  「イく……もう、だめっイっちゃう」  「オレも。中に出しますよ」  郡司の動きがさらに激しくなり、中の性器が張りつめた。  「あっ、あーー」  ぴたりと動きが止まったのと同時に中に熱いものが注がれる。追いかけるように射精感がきて、自分も達したのだとわかった。  荒い呼吸をした郡司に見下ろされ、たまらず腕を伸ばしてキスを強請った。  郡司は口元を綻ばして近づけてくれる。何度かキスを繰り返しているとまたお互いの熱が高まってきて、夢中になって身体を求め合った。

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