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第14話

 さらさらと前髪を梳かれる感触が心地よく、深い眠りからゆったりと意識が覚醒する。  目を開けると素肌にシャツを羽織っただけの郡司が潤の横に寝転んでいた。昨晩の名残で目元が少し赤らんでいる。目が合うと白い歯を覗かせてくれた。  「おはようございます」  「……おはよ」  ベッドから起きあがろうと腕をついたら腰が痛くて声にならない悲鳴をあげた。  体内からどろりとしたものが出てきて、頬が熱くなる。  「体調はどうですか?」  「えっと、その」  発した声はガラガラに掠れ、どれだけ声をあげていたのか思い知り恥ずかしさで顔を俯かせた。  ダイエットと称し郡司とセックスをしてしまった。初めての官能的な快楽に溺れ、我を忘れて何度も求めた。  その結果、普段の運動不足が祟り節々が痛む。特に奥まった箇所は熱を持ちながらもひりひりと痛み、事の激しさを物語っていて顔を枕にめり込ませた。  「無理させてすいません。今日は動けないと思うのでゆっくりしてください」  「ありがとう」  潤が寝ている間にシーツは取り替えられ、Tシャツと新品のボクサーパンツを履かせられていた。  (この巨体をよく着替えさせられたな)  潤のことを軽々と抱きかかえていたし、郡司は潤が思っている以上に鍛えているのかもしれない。  「白湯を持ってきますね。寝起きに飲むと身体がすっきりしますよ」  そう言って郡司はシャツのボタンを留めながらキッチンへと向かい、ものの数分で白磁のティーカップとビールジョッキを持ってきた。  ジョッキのなかは紫色でドロドロとした液体が入っているが、ほのかに甘い匂いが漂う。  ティーカップを渡され、ちびちび飲むと身体の芯から温まり気持ちがしゃんとする。  「スムージーも作りました。中身はブルーベリー、バナナ、小松菜、りんご、豆乳とはちみつです。寝ている間にたんぱく質などの栄養素が消化されてしまうので、朝に摂取すると健康にもいいですよ」  「ありがとう。いただくよ」  スムージーはバナナの甘さとブルーベリーとりんごのさっぱりした味わいが合わさって飲みやすく、小松菜特有の臭みは感じられない。  「美味しい!」  「昨晩はたくさん運動したので朝は少し多めに作ります」  「あ、うん」  情事を思いだし、また頬が熱くなる。  ベッド横にちょこんと座った郡司が小振りな頭を下げた。  「昨晩は無理させてすいません。理性飛んじゃって先走ったことを」  「いや、でも同意の上だったし……それに気持ちよかったし」  「本当ですか?」  目をまん丸くさせた郡司に笑った。どんなアクシデントにも動揺しないでクールに捌くのに褒められた子犬のように見え可愛い。  「じゃあこれから毎週金曜日はセックスダイエットの日にしませんか?」  「え、毎週?」  「ダイエットは継続が大事なんです。それとも毎日一時間歩くのとどっちがいいいですか?」  郡司の家まで三十分ほど歩いただけでへとへとだった。それを倍の時間を毎日するより、週に一回セックスしたほうが気持ちいい。  「でも、郡司くんは嫌じゃないの?」  「オレがそうしたいんです」  「……ならいいけど」  本当にいいのかなと不安はあったが、本音を隠さない郡司が社交辞令で言っているとも思えない。  昨晩の様子から郡司も潤の身体を気持ちよさそうにしてくれていたし、男同士なら妊娠してしまう危険もない。  (でもそれだけ昇進したいってことだよね。試験のときはちゃんと口添えしないと)  頭ではわかっているのに針に刺されたような痛みがあった。でもそれには気づかないふりをする。  「でも会社には内緒ですよ」  「それはもちろん」  こんなこと萩原を始めとした同僚たちに知られるわけにはいかない。なにより郡司を見守ると決めた女性陣になにを言われるかわかったもんじゃない。  「じゃあ約束」  そう言って郡司は顔を寄せてきたので目を瞑ってキスを受け入れた。
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