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第18話

 年末年始のピークを過ぎ、ようやく通常業務に戻ってきた。連日足腰がやられて辛かったが、慣れてしまえばフロント業務はいろんな人と話せるから気分転換になる。  (それに郡司くんと顔を合わせないで済んだし)  最初こそは郡司とシフトがかぶることが多かったが、潤が一人でもこなせるようになると別日になることが増えた。  でも今日からそういうわけにはいかない。郡司は隣の席でチームの一員だ。  どれだけ時間が経っても郡司への想いは色褪せることなく、むしろどんどん光輝いてきている。  過ごした時間が美化され、思い出が宝石のように潤の心に輝きを与えた。  気持ちを落ち着かせるために潤は就業時間より早く来た。空席の隣に目を配りつつ、人の気配に顔をあげ、郡司ではないことに肩を落とし、また気配がしたら顔をあげてを繰り返している潤に気づいた岡が近づく。  「さっきからどうされたんですか?」  「なんでもない」  「もしかして郡司さんが来るのを待ってたんですか?」  「え、いや……その」  「お二人、仲良しですもんね」  「そんなこと」  「でもいつも昼食一緒でしたよね?」  「たまにね」  潤が言い淀んでいると岡は語気を強めた。  「私がどんなにアピールしても二言目には『佐久間さんが~』て言うんですよ、あの人。こんなに可愛い私が言い寄ってるのに揺れない男は初めてです」  「……岡さん性格変わった?」  「こっちが素なんです。恋のライバルの前で猫を着る気になれなくなりました」  「ライバルって」  「郡司さんの一途ぶりには呆れます。でもそこがまたいんですけど」   「ははっ。そうなのね」  一時でも女性らしいお淑やかな岡に惹かれていたが、本来は我が強いようだ。確かに女性陣のなかで郡司には手を出さないとルールを決めていたというのに彼女は早々に破る度胸がある。  始業の時刻を過ぎたが郡司の姿はない。  「あ、郡司さんお休みです。熱を出したと電話がきました」  それだけ言い残すと岡はパソコンに向かった。  ここのところフロント業務で不規則な生活をしていたし、疲労が溜まっているのかもしれない。  (ちょっと様子を見に行くだけならいいかな)  一人暮らしで看病してくれる人がいないから困っているかもしれない。薬や飲み物の常備もあるだろうか。  でもそんなのはただの言い訳で郡司に会いたかった。自分から切ったくせに都合良すぎる。  でもやっぱり郡司と離れるのは寂しい。  顔を見たらすぐに帰ろうと決意して、その日の業務に集中した。
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