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好きで自販機よりでかいわけじゃない。 3
「それはそうとなんでこんな内職を?」
ちまちまとリボンを大量生産しながら、橋名はようやく仕事内容に触れた。
「キョウカサマのご命令。
リボンがいっぱいあったら可愛くないですかぁ〜って」
有澤は肩を竦めて、企画部の上司である女子社員の真似をして見せた。
案外似ているその声色と喋り方に苦笑する。
「お、でもはっしー上手じゃん」
「そうかぁ?…ってお前が下手すぎるだけだろ」
橋名は有澤の手元を覗き込み、その不恰好なリボンに眉根を寄せる。
「ここの長さをちゃんと揃えないと」
「えー?だって綺麗にならねえしぃ」
「最初の段階で考えとかないからそうなるんだよ」
ついつい小言を溢してしまったが、
彼は橋名の作ったリボンと自分が作ったものを見比べてにやにやと笑った。
「お前って意外と器用なとこあるよな〜図体でかいくせに」
有澤は橋名が作ったリボンを眺めながら、そう呟いている。
「でかいは余計だろ…」
貶しているのか褒めているのかは謎だったが
悪い気がしない橋名であった。
褒められれば嬉しいのは別に誰だってそうであると思うのだが
橋名のようなSubにとっては特別なことなのである。
もっと心の底から嬉しいと思えるような、そんな言葉を、行動をとってくれる運命の相手はいないものかと
求めてしまうのは贅沢なことだろうか。
コンコン、と二人が作業している会議室にノックの音が転がり込んだ。
「有澤くん、ここにいましたか」
静かに開いた扉から、地味な黒髪眼鏡の男が顔を覗かせる。
人数がそんなに多いとは言えない会社だが、それでもその影の薄さに一瞬誰だか考えてしまう橋名であった。
「篠田さん?どうしました?」
有澤は作業の手を止めて、椅子から立ち上がった。
「ちょっと予算の件でお聞きしたいことが…いいですか?」
丁寧な口調で男は手に持っていた何かの書類を軽く持ち上げて見せた。
有澤は返事をしながらも部屋を出て行ってしまい、
一人取り残された橋名は閉じられた扉を暫くぼうっと眺める。
そうだ経理部の、と先程の男のことを思い出す。
有澤はしばらく戻って来ないかもしれない、とすれば早く作業を終わらせなくてはと再び作業を開始すると
テーブルの上に置いていた携帯端末が小さく震えた。
画面を確認すると、昨日の相手からのメッセージのようで
その長文の内容に橋名は思わず頭を抱えながらも、無視をして作業を続けることにした。
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