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好きで自販機よりでかいわけじゃない。 5

長い睫毛に、形のいい唇、どこか不安そうな下がり気味の眉と それでも強い光を宿した瞳。 こんなに綺麗な人いたっけ、と彼をガン見してしまう。 「…えーと、橋名…くん?」 男は目を細めて、橋名はハッとなり慌てて彼に手を差し出した。 「大丈夫ですか…?前方不注意でした…すみません」 謝ると、男は床に落ちていた眼鏡を拾い上げた。 眼鏡を装着すると、先程会議室を訪ねてきた経理部の篠田という男がそこにいて 彼は床に散らばったリボンを拾い始める。 「あ、すみません」 橋名も慌てて床に這いつくばり、リボンを掻き集め始める。 そんな最中でもつい彼の顔を盗み見てしまう。 「ふふ、なんに使うんですか?これ」 篠田はそう言いながら小さく笑って、思わず心臓が飛び跳ねる。 「え…っと…俺達にもよく分からないんですけど…キョウカさんの命令で…」 「ああ…なるほど、大変ですねぇ」 彼はもちろん同じ会社にいて、何かとやりとりをする事もあったが 顔を見ても一瞬思い出せないほどの影の薄さだった。 しかし、分厚い眼鏡と少し長めの髪と地味なスーツに隠れてはいるが彼はなかなかに可愛らしい顔立ちのように見える。 少なくとも橋名にとっては結構タイプであったのだ。 「はい。これで全部でしょうか」 篠田はリボンを両手に、差し出してくる。 橋名は段ボール箱を彼の前に出しながら、すみません、ともう一度謝った。 「ありがとうございます…」 「うん。なんか君がそういうの持ってるの、可愛いですね」 彼は微笑みながら、立ち上がった。 橋名はしゃがんだまま彼を見上げる。 「次からは気をつけるように」 そう言って見下ろされ、また心臓がどきりと飛び上がり 橋名は何も言えずただ呆然と頷いた。 「それじゃ、お疲れ様です」 彼が立ち去った後も、橋名は暫く呆然と座り込んでしまった。 篠田の言葉が頭の中に響き渡り、橋名は不可解さに眉根を寄せながらふらふらと立ち上がる。 「……し…篠田さん、アリかも……?」
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