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いい子だね。 1

そこから橋名は記憶が飛び、気付けば如何わしいホテルの床に座り込んでいて ベッドに腰掛ける篠田を見上げていた。 自分から起こしたとはいえ突然の急展開に若干思考が置いてけぼりになっている。 それは目の前の彼が想像以上の存在だと思い知っているからかもしれない。 「さて、俺がどんな怖いおじさんかもわからずに のこのこついてきちゃった橋名くん?」 スーツのジャケットを脱いだ篠田はますます細く見えたが、 足を組んで頬杖をつきながら小首を傾げる彼の妖艶な雰囲気に 橋名は思わず生唾を飲んでしまった。 別になんの命令もされていないのに勝手に動けなくなってしまっているし。 「なんてね。俺そんなに上手じゃないと思うけど 本当に大丈夫?」 「はい……なんか……篠田さんに命令されてみたいです……」 彼の瞳に見つめられているだけで、なんとなく頭がぼうっとして 橋名は床を這うように彼に近付き強請るように見上げた。 「ありゃ…橋名くんもう結構入っちゃってる? うーん、そっかそっか、そんなに我慢してたのか…可哀想に」 篠田は苦笑しながらも橋名の顔を両手で優しく包んで、そっと顔を近付けてくる。 「いい?橋名くん、嫌なことあったらすぐ“Red”だよ?」 「はい…」 「じゃあ、俺のこと、沙凪って呼んで?」 「サナギさん…」 「うん。よく出来ました、いい子いい子」 篠田は優しく頭を撫でてくれて、彼のその穏やかな口調と声に橋名は思わず目を細めた。 心地いいかもしれない、橋名は猫でも撫でるように顎の下をくすぐってくる彼の手にそう感じてしまう。
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