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ちゃんと捕まえとけ? 4

廊下の突き当たりを曲がっていく後ろ姿を捉え、走っていくと 誰もいない廊下を静かに歩く後ろ姿が再び見えた。 黒髪と地味なスーツ姿。 今までだったら目もくれなかったかもしれないその姿に、橋名は胸が高鳴っていた。 「サナギさん…っ!」 思わず呼んでしまうと、彼は足を止めてゆっくりと振り返ってくる。 分厚い眼鏡は光に反射して表情が読み辛い。 「あ…あの、あの……」 思わず声をかけてしまったものの、何を言えばいいかわからず言い淀んでいると 彼はこちらへフラフラと歩いてきて、橋名を見上げる。 「帰り、大丈夫でしたか?」 「え…?あ、はい平気です全然」 「そう、それならよかった」 篠田は無表情に頷き、やがて目を逸らしてくる。 「…昨日はいきなりごめんね」 彼はどこかばつが悪そうにしていて、何故謝られるのかも分からなかったし そんな顔をさせてしまっていると思うと妙に胸がざわざわしてしまって。 「なんで謝るんですか…?」 「んー。君の弱みに漬け込んだかなと思って」 「え?いやいや、俺の方こそ、いきなり…すみません」 欲望の赴くままに、口走ってしまったことや行為自体など 彼を目の前にするとなんだか生々しく蘇ってしまって 橋名は思わず顔を赤らめてしまいながらも、俯いた。 「おお。さては君、懲りてませんね?」 篠田に顔を覗き込まれ、呆れたように口を歪められる。 懲りるどころか、という話なのだが橋名はどうにか自分を奮い立たせる。
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