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本気くさいぞ。 5
奢らせておきながらそのハンバーグの絶品さ加減の半分ぐらいしか堪能出来なかった橋名であった。
あつーい、とか、おいしー、とか言いながらいちいち愛くるしい姿を晒す目の前の31歳に
自分はこんなにコミュニケーション能力が欠如していたかと思うほどだった。
彼の一挙一動に語彙力も思考も奪われてしまって本当に、自分が自分ではないようで
今まで散々出会い厨をしてきたはずなのに、全くもって未知の体験だと言わざるを得ない。
食後の運動も兼ねて海沿いの公園にやってきた2人は、ボードウィークを歩いて
沙凪は途中てとてとと先に走って行って、手すりを掴むと海を見下ろしている。
「橋名くんみてみてーあそこにお魚がいるよー」
そんなことを言いながら身を乗り出している彼の姿はそのまま落下していきそうで危なっかしく思えて
橋名は慌てて彼の隣に行った。
海を見るよりも彼の横顔を見てしまって、その美しい白い頬と眼鏡の向こうのキラキラ光る瞳に
なんだか胸がぎゅうっと締め付けられるような感じがした。
それは今日連続していた不可解な感情の反応なのだ。
沙凪はやがてこちらを見ると、片眉を上げて小さくため息をついた。
「楽しい?俺なんかといて」
「………楽しい、です、めっちゃ…」
「はぁーもう。気遣わなくてもいいんだよ?
俺みたいなおじさんと居てもしょうがないってことくらいわかってるからぁ
しかも寝坊して遅れて来るよーな」
やれやれと呆れているような彼に、橋名はどうにか否定しなければと
今日一日ぼけっとなっていた頭をフル回転させた。
「違くて…俺はサナギさんといれるの、嬉しいですよ…けど
どちらかといえば俺の方が付き合ってもらってる感というか…」
なんとなくではあるが、彼はきっと誰とでもこんな感じなのではと思う。
しかしそう思うとどこか寂しさもあった。
他の奴はこの人のこの可愛さに気付いていないだけに違いなくて、気付いたらきっと誰しも彼に気に入られようとするだろう。
「えー?そうなの?」
「そうですよ。だってサナギさん…絶対モテそうだし…」
「はは、どーかなぁ」
沙凪は手すりに背を預けると、考えるように上の方を見上げた。
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