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本気くさいぞ。 6

男であろうが女であろうが、別にSubじゃなくても この穏やかな雰囲気や綺麗な横顔は、誰だって。 橋名は自分で言っておきながら妙に焦りの気持ちが出てきてしまって 思わずぎゅっと両手を握り締めた。 「うーん。多分ダメなんだよねえ…」 「え…?」 沙凪は目を細めながら空中に彷徨わせていた視線を、もっとどこか遠くへと飛ばしているようだった。 「俺は恋愛とか…誰かと特別な関係になるとか…あんまり向いてないんだと思うんだ。 好きな子、苛めすぎて壊しちゃうから」 どこか、悲しそうで、辛そうな。 それでも竦み上がってしまうほどの。 彼はチラリとこちらを見ては、口元を歪めて笑った。 心臓が煩いくらいに爆鳴りし始めて、口から何かが飛び出そうだった。 橋名が何も言えずにいると、彼は人差し指で橋名の胸を軽く押してくる。 「橋名くんも気をつけなさいね」 そんなことを言われても、もう結構遅い気がした。 彼のその言葉の真意はわからなかったが、橋名の頭の中は彼に苛められたいという欲求が溢れてきていて それが悲しきSubの、あんなに憎らしかったダイナミクスの性の呪いだったとしても 構わないというくらいには。 「あっ!おしゃれキッチンカーだ! コーヒーとか売ってないかなー」 沙凪は手すりから離れて、公園の方に何かを見つけたらしい。 またてとてとと走っていく後ろ姿を、橋名は呆然と見つめた。 やがて彼はこちらを振り返り、ねえー、と口を尖らせる。 「橋名くーん?置いてっちゃうぞー」 「あ、はい…!」 彼を追いかけながら橋名は、どうも自分は結構本気くさいぞ、と思うのであった。
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