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生き辛いよね 1
結局コーヒーを買いに行かされた橋名であったが、下手なDomからの命令よりも
沙凪のためにできる些細なことが嬉しく思えて
これが好きパワーか、などと謎の概念を作ってしまうのであった。
キッチンカーでコーヒーを二つ購入した橋名はそれを持って遠くのベンチで待っている彼の元へ戻ろうと歩き出すと
目の前に急に誰かが立ちはだかった。
避けようとするがその先も塞がれて、橋名はその人間を見下ろした。
進行方向を塞いでいた女は腕を組みこちらを睨んでいて、橋名は思わず後ろに後ずさった。
「どういうこと?」
「え…」
話しかけられ、誰だっけ、とまず思考を巡らせた。
清楚そうな顔立ちとは裏腹にその瞳はキツくこちらを睨み付けていて、橋名は体が動かなくなるのを感じる。
「返事返してくれないし、電話にも出ない
どういうつもり?」
「え…っと…?」
彼女はこちらへ近寄ると顔を近付けてくる。
あ、そうだ。ブロックしたあの子だ、と橋名は彼女のことを思い出した。
「あたしのこと好きなんだよね?付き合おうって言ったよね?」
「は…?そんなこと言ってないんだけど…」
「言ったじゃん…!!!」
そんな話をした覚えはないのだが。
思い返せば最初から彼女は妙な距離感だった。
そういう性格なのかと思っていたが、どうやら厄介な相手だったらしい。
しかし橋名は彼女の気迫にまともに反論が返せなかった。
「………言ってないよ…俺が言ったのはもう会えないってことで…つ…付き合った覚えはない…」
「なんで?好きって言ったじゃん!」
「言ってない、好きじゃない、よ…」
こういう相手にははっきり言わないといけないのだが、
橋名は震える声をむりくり紡いで気持ちを伝えると、彼女はとても怒ったように目付きがますます鋭くなった。
「嘘つき!!!」
「…ッ!」
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