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生き辛いよね 2
彼女の叫び声に、頭がぐらぐらと揺れて橋名は思わず崩れ落ちそうになった。
身体中の力が抜けて倒れそうになると、背中を誰かに支えられる。
「ねえー何やってんのぉ」
現場の空気に似合わない間延びした喋り方に、橋名はビリビリと世界が恐ろしく振動しているのを感じながら
声のした方を見下ろした。
とても近くに沙凪の姿があった。
「誰?あんた…」
「んー?君こそ橋名くんの何?
あ。コーヒーありがとうね」
沙凪は橋名に微笑みを浮かべながら、いまにも落としそうになっていたカップを片方奪い
もう片方の手で橋名の背中を摩っていた。
「誰でもいいけどさ、公の場でやることじゃない気がするんだけどなぁ」
「はぁ?あんたこそ楓の彼氏ヅラしてなんなの?!」
「かれしづら」
彼女の言葉に沙凪は肩を竦めて面白そうに笑いながらコーヒーのカップに口を付けた。
「橋名くん、俺が話すから向こう行ってな」
「…さ、なぎさん…」
「いいから。ね」
沙凪は小さな声でそう促してくる。
自分の問題なのにと思うのだが、さっきから彼女から放たれるオーラに身体が震えていて止まらないのだ。
橋名はどうにか自分の身体に鞭を打って離れようとすると、
彼女にギロリと睨まれる。
「待ちなさいよ」
「……ッ…!」
その低い声に、気絶しそうなほど世界が揺れて
気付けば橋名はその場に座り込んでいた。
嫌なのに、逃げ出したいのに、体が云うことを聞かない。
彼女の命令を聞かなければ、と身体が勝手に反応しているのだ。
離れることを許さない彼女の。
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