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生き辛いよね 4
一頻り泣いてようやく落ち着いた橋名はベンチに座らされて、
沙凪は何も言わずに橋名に身体をくっ付けてくれていた。
「…なんか、今日全然ダメでしたね、俺…
迷惑かけちゃって、本当にすみませんでした…」
貴重な休みを使って来てくれたのに、気に入ってもらえるどころか
大号泣したり、頭がぼうっとなっていたせいで逆に気を遣わせたり、
挙句の果てには自分のこれまでの行いの報いで迷惑までかけてしまった。
どう考えても呆れられるに決まっているのだが、それでも辛辣な事を何一つ言わず
寧ろスタンス一つ変えず、のんびりとコーヒーを飲んでいる彼に癒やされている自分もいた。
「橋名くんがめちゃくちゃモテてる話?」
「モテてるわけじゃ…いや、俺のせいではあるんですけど…」
「はは。まあいいよ。なんか懐かしい感じした」
「え?」
「いやこっちの話」
沙凪は一瞬どこか遠くを見るような目をしたが、やがてこちらを見上げて困ったように笑った。
「まぁ…ちょっと生き辛いよね、我々」
そんなことを言いながら、頭を撫でてくれる。
満たされなければ、日常生活すらまともに送れなくなる。
だけれど人と人はそう簡単には分かり合えなくて。
ずっとそんなのの渦の中にいて、満たされるどころか
自分は誰かを好きになることすらできないのではと思った事もあった。
「でもきっといーことあるさ。橋名くんなら大丈夫だよ」
橋名の肩に頭を乗せながら、沙凪はそんな風に言っていて
彼女とのことも話せと命令すれば全てを曝け出させてしまえるのに、
何も聞かずにいてくれていることも、
ただただこうして身体をくっつけて寄り添ってくれている事も、
橋名は、この人しかいない、みたいな気分になっていた。
今まで心底満たされず、誰かを好きだと思えた事が無かったからこそ尚更、なのかもしれないが。
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