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生き辛いよね 5
「サナギさん…“俺の”橋名くんって言ってましたよね…」
「え?…あぁ〜、はは、アレね。
ああ言っておけば諦めてくれるかなーって思ってさ、ごめんごめん。
余計な嘘ついちゃったね」
「…余計じゃないです」
橋名は沙凪の方へと身体を向け、彼に顔を近付けた。
「え?」
「嘘、じゃなくていいです」
願わくば、そうなりたい。彼のものに。
そんな欲求に突き動かされ、ベンチに押し倒しそうな勢いで彼の瞳を覗き込んだ。
分厚い眼鏡の向こうの瞳は、どこか戸惑っているようだった。
「…は、橋名くん…?」
ベンチの背もたれに手をつき、彼が逃げられぬよう塞ぎながら
その唇を奪いたくて、顔を近付けていく。
「俺、サナギさんのことが…好きです…」
彼は自分は恋愛がダメだと言っていたが、橋名の心はもう沙凪でいっぱいだった。
この人のものになりたい。
全部全部支配されたい。
そんな欲求を強く抱いてしまう。
「だ、…ダメ、……」
唇がもう触れ合うという所で、沙凪の掌が橋名の口を塞いだ。
「君は、多分、性欲と履き違えてるだけで…
そんな簡単に好きとか言ってはいけないよ…」
「違う、俺は本気です…っ!」
沙凪の腕に身体を押されて引き剥がされたが、橋名は必死に彼に分かってもらおうとした。
彼はどこか辛そうに目を細めて、ベンチから立ち上がった。
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