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生き辛いよね 7
急に彼の口から放たれたコマンドに、強制的に橋名の身体は動かなくなった。
その隙に沙凪は橋名と手すりの間から逃げ出して、わたわたと焦り始める。
「うわ…コマンド使っちゃった、ごめ、ごめん橋名くん」
彼の手に背中を撫でられて、橋名は身体を動かせるようになったが
どこか本調子ではない様子の彼もまたそうだし、
命令をされて心底喜んでいる自分もいた。
「で、でも…橋名くんが悪いんだぞ?
待ってって言ってるのに」
「…ごめんなさい」
「あ、もうほらダメだって」
橋名が尚も顔を近付けようとすると、沙凪は飛び上がるようにして逃げ出し距離を取った。
それが少し悲しくも、彼の顔が赤い様子を見ると本気で嫌なわけではないのかな、と少し期待してしまう。
「わかった、君の気持ちは充分…
でもその、少し考えさせてほしいというか…」
「考えてくれるんですか?」
「え、うーん、まあ、考えるだけならっていうか…」
頭を抱えながら、どこかいつもの余裕が無くなっている様子の彼に
完璧にフラれたわけではなく可能性はありそうで、橋名はそれだけでも充分だった。
「じゃあ俺、サナギさんに好きになってもらえるよう
頑張ります…!」
橋名が気合を入れ直すと、沙凪は苦笑していた。
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