46 / 145
何かしたくて 4
沙凪に、少し考えさせてほしい、と言われてから
橋名は毎日せっせと弁当をこさえては昼休みに彼に届ける生活を送っていた。
最初はこんなことをしてウザいと思われるだろうかと恐々ではあったのだが
毎日沙凪は綺麗に完食して、美味しかったよ、と微笑んでくれて
それだけでかなり幸せな気がしている橋名であった。
とはいえ、彼に好かれる為にどうしたらいいか、がよくわからず
とにかく弁当を作ることしかできないのは歯痒いのだが
今回のきんぴらごぼうが最高だったとか、あれの味付けが好みだったとか、彼の感想を元に弁当の品質の改良を重ねていく日々は
マッチングアプリで手当たり次第に出会い厨をしていた頃よりも遥かに充実した生活に感じる。
こんな風に、誰かのために生きている感じ、がしたのはほとんど初めてで
それが酷く満たされているように思えるのは自分がSubゆえのことなのかもしれないが。
沙凪は相変わらずふらーっと過ごしていて、
会社ではスーツに身を包んで些かデキる社会人かのように見えるが
地面から数センチ浮いているのではというようなふらふらとした歩き方や
同僚と喋っている時に聞こえてくる、えーそうだっけー、という気の抜けた返事など
彼の姿を見かけるたびに少々心配になってしまって
やっぱりなんだか放っておけない人なんだよな、と思う橋名であった。
企画部は相変わらず女子社員キョウカ姫の独裁に振り回されていて、ここ数日少しばかり残業を余儀なくされていたが
些か上機嫌な橋名にとっては許容範囲内だった。
他のメンバーは帰ってしまっていたが
自分だけ少し居残って仕事を片付けてから帰ることにした。
ともだちにシェアしよう!

