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何かしたくて 7
少し前までこの人のことを何にも知らなかったし、知ろうとも思わなかった。
それなのに今は、こんなにも世界の中心に彼がいて
彼が喜ぶことであればなんだってしたいというような気にすらなるから致命傷だ。
「サナギさん、俺にできること他にないですか…?」
橋名はこれでも結構必死だった。
彼にはあんまり必要とされていない感じもしていたから。
こんな風に誰かのことを追いかけるだなんて、思いもしなかった。
それでも今、割と満たされているような気さえしているのは
ずっとこんなのを望んでいたからかもしれない。
沙凪は困ったように首を傾けている。
「んー?…そうだなぁ、じゃあこっちきて」
言われるままに彼に近付くと、沙凪は手招きをしてくる。
「ちょっとしゃがんでみて」
「?こうですか?」
彼の言う通りに膝を曲げて中腰になると、彼の両手が頭を掴んできて
ぎゅーっと抱き締められる。
「橋名くんはえらいぞ〜!」
「…っ、!?」
沙凪はそう言いながら橋名の髪の毛を揉みくちゃにして、
頬を掴んで額をくっつけて、すりすりと頬擦りをしてくる。
「頑張ってる可愛い橋名くん、いいこいいこ〜」
子どもか犬にでもするような所作を一頻り終えると、
はぁ〜満足した、と沙凪は手を離した。
何が起きたのか一瞬わからなかったが、
彼の顔がめちゃくちゃ近くにあって香りを感じられたことが今更じわじわと実感し始めて
顔が熱くなり始める。
「よし、うどん食べに行こう!」
沙凪はそう言ってさっさと歩き出してしまう。
褒められた。
橋名は頭がぽわぽわとなり始めるのを感じながら彼の後を追うのだった。
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