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片付いてる 1

彼の所望した夕食を終え駅に向かってまた並んで歩いていく。 沙凪は相変わらず31歳とは思えない可愛らしさを爆発させていて うどん一杯を食べるのにどうしてそんなにいちいち愛くるしくいられるのか研究したいほどだった。 こうして彼の近くにいて、弁当を褒められるだけでも充分なはずなのに 駅が近付くにつれ寂しい気持ちが湧き起こってしまう。 もっと彼に触れて貰いたいし、欲を言えばちょっとだけ意地悪もされたかった。 彼に構って欲しくて、見て欲しくて、だけどどう言えばいいのか分からない。 迷惑だと思われたりは絶対にしたくなかったから。 「橋名くん?どした?」 また口数が減っていた橋名を心配するように沙凪が見上げてきた。 その白い首に噛み付いたりしたい、だとか なんだかどんどん自分でも気色が悪いと思える欲求が溢れてきて 橋名は苦笑した。 「サナギさんを、困らせたくないのに、困らせそう…」 「んん?どういう意味だぁ?」 「……まだ一緒にいたいけど、なんていうか… 引き留める理由とか上手い言い訳が何も思いつかなくって…」 「あはは…相変わらず、素直だなぁ…」 矛盾する感情には笑うしかない。 沙凪は、うーん、と眉根を寄せて考えるように唸った。 「……じゃあ、俺んち、来る?」 「………へ?」 「ここからだったら、近いかなーって」 「いいんですか…?」 「ん。まあ、橋名くんならいっかな」 そんなことを言われると、幾分か自分は特別だと思われているのだろうか、などと期待してしまう。 じゃあそうしよう、と歩き出す彼の後をついていきながら 沙凪さんの家、と思うと頭に血が昇りそうだった。 突然の展開に驚きながらもついつい期待をしてしまう。 つまりそういうことだよな?なんて。
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