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片付いてる 6
「頑張る…か…」
「そ。理想通りのゴシュジンサマを演じなきゃ〜ってさ」
頑張らなきゃ、その意見に、今までの相手もそうだったのかと思うと
なんだか自分の欲求だけを求めていたのかもしれないと反省してしまう。
相手に勝手に理想を押し付けて、相手の理想を考えたことなどあっただろうか。
だからうまくいかなかったのかもしれない。
橋名はなんだか凹んでしまって、手元のビール缶を見下ろした。
「俺…自分のことばっか考えてるのかな…」
DomもSubも、支配的欲求で複雑化しているけれど
本当は同じ目線の人同士で、本来はお互いがお互いを尊重し合わねばならないはずなのだ。
本当はもっと好かれるように、もう少ししおらしくとか、Subらしくとか、努力すべきなのかもしれない。
沙凪はこんなガキのような自分がどう見えているのだろう。
顔をあげると、向かいにいたはずの彼の顔がすぐ近くにあって
橋名はどき、と心臓が高鳴るのを感じた。
それでも彼のその吸い込まれそうなキラキラした瞳には勝手に身体が反応してしまうのだ。
「あのね?人を頑張らせちゃうくらい
君が魅力的だってことを言いたかった」
「サナギさん…」
「……ごめんね、俺は全然頑張れないんだ…
橋名くんも…いっぱい泣かせちゃってるし…きっと悲しくさせちゃってるよね…」
沙凪は困ったように微笑むと、橋名の両頬に触れて額をくっつけてくる。
「ねえ…そんな顔、しないで…?」
彼の言葉もくっついた額から感じる体温も、すぐ近くにある彼の存在が
自分の思考を奪ってしまっているのは紛れもない真実で。
理想かどうかはわからないが橋名は、やっぱりこの人は運命の人なのかもしれないと勝手に思ってしまうのだった。
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