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片付いてる 7

「…俺、ガキだし、自分勝手で、許してもらってばっかりで… でも俺…サナギさんのこともっと知りたいって思ってるんです サナギさんに喜んで欲しいし…、もっと笑わせられたらって…」 橋名は彼の手に触れて、その掌に口付けた。 「どうしたらあなたに喜んでもらえますか…? どうしたら、あなたの側にいられますか……」 いつも汲んでくれて、許してくれて、撫でてくれて。 この白くて小さな掌に、既にたくさん救われている。 「うーん……」 沙凪はまた困ったように唸っていて、橋名はその手をぎゅっと握りながら彼の瞳を覗き込んだ。 「サナギさんだけです、こんなこと言ったのも思ったのも 本当です…!」 必死に訴えていると、やがて沙凪は小さくため息を零して 橋名の手から逃げるように身体を離して立ち上がった。 「サナギさん…?」 彼はこちらに背を向けると、泣いているように両手で顔を覆っている。 また困らせてしまったかと思うと橋名は自己嫌悪しながら唇を噛んで彼の背中を見上げる。 どうしたらいいんだろう、どうしたら見てもらえるんだろう。 どうしたら、どうしたら。 「ごめんなさい……サナギさん…、俺…」 一方的に気持ちを押し付けて、彼の気持ちを全然考えて居られなくて。 彼はどこか恋愛を避けているようだし、何かトラウマがあるのかもしれない。 だけれど抑えきれなくて、相反する気持ちにはどうしたらいいのだろう。 「本当に、…よくないよ橋名くん… そうやって必死なところが君のいいところだと思うけどさ… そんな風にされたら…」 沙凪は再びため息をつくと、ようやくこちらを振り返って 橋名を見下ろしてくる。 その瞳に、ぞく、と身体が震えた。 甘い痺れが身体を蝕んで、全身の力が抜けていくのに 心臓がやたらと煩く騒ぎ出して、呼吸がままならなくて。 橋名は呆然と彼を見上げながら、高揚し始める感覚に飲み込まれていった。 「…意地悪したくなっちゃうじゃん?」 目を細めてそんなことを言われると、そうされたい、という気持ちで脳がいっぱいになる。 彼を困らせたくない理性と、めちゃくちゃに懇願したくなる欲望とが渦巻いて 橋名は何も言い出せずにただただ彼を見上げるしかなかった。
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