70 / 145

橋名くんになら 3

暫くしてサナギはまたシャツを羽織っただけの状態で 更に髪から水を滴らせながら現れて、床を濡らしながら歩いているので 橋名は見ていられず彼を座らせ、タオルで髪を拭いてやった。 ドライヤーも無いらしかったが、謎に綺麗な容器のヘアオイルは持っているらしく その割に美髪業界では一番タブー視されていそうな自然乾燥であのツヤツヤ黒髪を保っているのだというから 美意識が高いんだか低いんだか謎である。 身支度を済ませて一緒に彼の家を出た。 朝日に照らされた彼の住む街は、別にどこにでもありそうな風景なのに なんだか不思議な輝きがあって 隣に彼がいるからだろうか、などと思ってしまう橋名であった。 「…朝…?あー…俺あんま食べないかも」 朝食について聞くと彼はそう言って苦笑した。 確かに解釈一致ではあるが、橋名はため息を零して彼を引きずり 駅前の、モーニングの看板が出ていたカフェに連行した。 「朝はしっかり食べないと頭回らないし体もだるくなるし 集中力もすぐ切れるし…」 まさかいきなりお菓子なんて食べてないですよね、低血糖になりますよ、などと 橋名がくどくどと朝食の大切さを説くとサナギはコーヒーの入ったカップを両手に苦笑いだった。 「おかあさんみたいだね橋名くん」 彼の感想に橋名はため息を零す。 自分が呆れられるほどの世話焼きなのは重々承知していたが、 こんなにも放っておけない人に遭遇したことなどあっただろうか。

ともだちにシェアしよう!