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褒められたい 2

「ちょっと橋名くん!全然終わってないじゃないの!」 急に怒られて、橋名は呆然と顔を上げた。 短い前髪の下から覗く形のいい眉を寄せながら、キョウカ女史が腕を組んで睨んでいる。 「すみません……」 「もう!いいわ!早く準備して!」 「は、はい…」 準備ってなんだっけ、と思いながらも橋名は反射で謝り席を立った。 ぷりぷりと怒りながらも妙に気合の入った化粧を晒している彼女の横顔に、そうだイベントだ…、と重大な仕事を薄ぼんやりと思い出した。 ショート寸前の頭を無理矢理動かして、必要な荷物を掻き集める。 「…大丈夫か?」 有澤が声をかけてきたが、橋名は曖昧に返事をして さっさと行ってしまったキョウカの後を追いかけた。 重たい荷物を両腕に感じながら、突如として 自分はなんのために生きているのだろう、などと思ってしまう。 ドアが閉まる寸前で彼女の乗ったエレベーターに滑り込み 今は仕事を全うしなければ、と言い聞かせた。 「橋名くん最近ぼーっとしてるわよ?気を引き締めてもらえる? 今日は特にとっても大事な日なんですからね!」 厳しい口調だったが彼女の声はどこかふわふわとしていてあまり緊迫感がない。 しかし今の橋名には否定的な雰囲気だけで萎縮してしまって ただただ、平謝りだった。
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