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追いかけたい 3
彼は完璧なDomで、それこそ絵に描いたような理想形みたいだった。
自分とは全然違って、だから別にこれでいいはずなのだ。
子ども、か。とかつての記憶が蘇って
自分では成し得なかった事を知らない所で簡単にやってのけた目の前の存在に
急にまた頭が上がらない思いが込み上げてきて
沙凪は俯いて目を逸らした。
「……幸せなら、よかったじゃん」
小さく呟いて頷いた。
彼はただの友達で、そうじゃなくなったのは
自分の恋人が彼のものになってからだ。
本当はただそれだけの関係で、彼女の気持ちを彼が奪い去る間の出来事がちょっとだけ壮絶だっただけだ。
それにほとんど彼に押し付けた形で逃げてしまったから
どちらかといえば、よかった、と思うべき事だと沙凪は納得していた。
「…篠田、ずっと1人でいる気なのか?」
「関係なくない?」
何だって自分なんかに構うのだろう。
申し訳ない、だとでも思われていたとしたらそれこそ反吐が出そうだった。
「責任でも感じてる?だったらお門違いだよ
俺は逃げたし、君に押し付けただけ。
別に誰も恨んでないし怒る筋合いもないです」
彼は階段をようやく降りてきて、沙凪の前に立った。
「俺の立場からじゃ何言っても腹立つだろうけどな
だけど俺はお前にも幸せになって欲しいと思ってるよ」
どこか寂しそうな目で見下ろされ、残酷だよ、と思う他なかった。
沙凪は自分の性格の悪い部分が騒ぎ出す事にどんどん耐えられなくなって彼から後退りした。
「自分のことだけ考えてれば良いじゃん
俺は別に、…幸せだよ…」
「そうは見えないが」
「どう見えようが関係ないでしょ…」
沙凪はなんとなく呆れにも似た心地を感じて、彼を睨んだ。
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