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追いかけたい 6

あっという間に居なくなってしまった彼を探しながら、 追いかけてもいいのだろうか、という迷いも出てくる。 なんでもないって割り切ったばかりなのに。 目の端に彼の姿を捉えた気がして、そちらに顔を向ける。 丁度廊下の先を誰かが曲がっていき見えなくなったところだった。 沙凪はそちらへと歩みを進めると、誰もいなかったがトイレが目についた。 男子トイレに入っても誰も居なかったが、3つある個室のドアは1つだけ閉じられていた。 「……橋名くん?」 確信めいて声をかける。 返事は返って来なかったが、沙凪は閉じられたドアに近付いた。 「……あの…さ…」 ここまで来たものの何と言えばいいのかわからない。 色々と思考するが適切な言葉が思い浮かばないのだ。 自分は彼の何者でもないし、勘違いしないでと言う資格なんて無いのかもしれない。 ドアにそっと顔を近付けると、啜り泣くような声が微かに聞こえた。 「………俺なんかのことで……橋名くんが…傷付く必要ないんだよ…」 泣かないで欲しいのに。苦しまないで欲しいのに。 やっぱり自分は、酷く劣ったDomだと思う。 こんなことばかり強いていて、挙げ句の果てには逃げ出すしかなくて。 「俺…ばかですよね……サナギさんの気持ち全然考えずに、… 自分の欲求ばっかり押し付けて…」 「……え…?」 「サナギさんのために何かしたいなんて、俺のわがままでしかないのに なんでも許してくれるサナギさんに甘えてた…」 「何言ってんの…?」 ドア越しに響いてくる橋名の震える声に、沙凪は眉根を寄せた。
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