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追いかけたい 7
「今も、こんな風に心配かけて困らせてるのに…
…っ、おれは、サナギさんが追いかけてきてくれて……
嬉しいって思ってる…っ」
沙凪はドアに手を触れて、どうしようもなく、泣きそうになっている自分をそこに縛り付けていた。
「嬉しい…か……」
思わず苦笑したくなって、沙凪はドアに額を付けるように俯いた。
「…でも…、もう、やめます……
俺はいいSubなんかじゃない……、運命の人に…出会えないんじゃなくて…
きっと俺が…Subとして、全然ダメなんだと思う…
俺…つい、色々したくなって手も口も出ちゃうし…追いかけてしまいたくなって、大人しく待つとか、全然出来なくて…
サナギさんはそれでも…俺のこと許してくれるから…っ」
ドアの向こうから聞こえてくる声に、沙凪は溜息を溢した。
それは自分自身に対して、だ。
「……甘えてるのは、俺の方だよ。
橋名くんの気持ちに漬け込んでさ…責任取れないくせに……
…こんな風に橋名くんを泣かせて…傷付けてばかりで…」
手なんか出さなければ良かった。
幸せにしてやれないくせに中途半端に構ったりして。
彼じゃない誰かに足を取られて、彼にちゃんと向き合えていなくて。
「…橋名くんは…、何も悪くないよ。君は素敵な、子だよ。
俺じゃなかったらきっと君は…」
幸せになれる、と思う。
言葉が全然出てこなくなって、沙凪はドアから手を離し両手を握りしめた。
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