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個人的な話 4
沙凪は自分で、恋愛は向いてない、と言っていたけどそれは優し過ぎる故なのかもしれない。
橋名はまた泣きそうになっていた。
今までも昼間も、沙凪がああやって言っていたのは、優しすぎて傷付いてきたからなのだろうか。
「…サナギさんを傷付けるような事はし、しないでください…」
彼の一声で自分なんか即座にクビになってもおかしくないし、口を出せる関係なのかもわからないけど
橋名は必死で彼を見つめた。
彼は、へえ?と片眉をあげて笑うとこちらへとゆっくり歩いてきた。
「あいつは君のことどう思ってるんだろうね?」
そう言いながらも彼の片手が橋名のネクタイに触れた。
さっきまでは人の良さそうな笑みを浮かべていたのに、急に冷たい視線を向けられ、その威圧感には倒れそうになる。
「…サナギさんは…俺のこと迷惑に思ってるかもしれませんね…
でも…俺は……、サナギさんを大事に思ってます…」
橋名は震えながら必死に彼を睨んだ。
「なるほど?あいつが必死に追いかけんのちょっと分かるかもなぁ…」
彼は面白そうに言いながら、橋名のネクタイを軽く引っ張って顔を近付けてくる。
この人はDomだ、と感覚的に分かってしまって膝を付きそうになるのをどうにか耐えていた。
「違う…お、俺が…、追いかけてるんです…!」
沙凪の事を考えると勝手にまた涙が出てきてしまいそうになる。
沙凪は本当は、追いかけたくないし追いかけてきて欲しくないのかもしれない。
だけど、あの人は優しすぎるから。
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