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運命の人 2
そわそわしてしまってカウンターの向こうを覗き込むと
案の定沙凪は袖を濡らしていて、橋名は居ても立ってもいられず彼の隣へといった。
「サナギさん、袖が……」
袖を捲ってやると、彼はこちらを見上げてくる。
眼鏡越しのその瞳に、しまった、という気持ちになる。
座ってろと言われたのに無視をしてしまった。
「あ…ごめんなさい……」
反射的に謝ると、急に否定されてきたことを思い出してしまう。
余計なことをするなとか、Subはただ言うことを聞いていればいいとか。
沙凪はきっとそんな事は言わないだろうけど、もしも言われてしまったらと思うと、怖くなってしまう。
「……橋名くん…そんなに俺が信用できないの?」
「そ…そうじゃなくて、そのなんていうか…」
思わず目が泳いでしまうと、沙凪はまた食器に目を落とす。
そして逆手で橋名の襟元を掴み、引き寄せてくる。
「うん、じゃあそこでみてて」
彼はそう言ってまた作業を開始し始めた。
その手つきはもう危なっかしくて仕方がなかったが、橋名はそれ以上何も言えずに
唇を噛み締めながら見守る他なくて。
身体が縛り付けられたみたいになっているのが少し辛かったが、必死に耐えていた。
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