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運命の人 6

彼は美しい微笑みを浮かべたまま橋名の両手に体重をかけてきて そのまま床に押し倒されてしまった。 「俺、橋名くんが“必要”だからここにいるんだけど」 橋名はただ涙を溢れさせながら、狭いキッチンの天井が背景でも 、なんだか輝いて見えてしまう沙凪を網膜に焼き付けていた。 眼鏡の向こうの瞳はキラキラと光っていて、そこから目が逸らせなくて。 必要、その言葉に処理しきれないくらい圧倒されて 心臓があり得ないくらい鼓動を早めていて、気絶しそうになっていると 沙凪は困ったように眉根を寄せた。 「………橋名くん?だい、じょうぶ…?」 彼はようやく手を離してくれて、床に転がって死にかけている橋名の頬を両手で包んでくれる。 「だい…大丈夫です…すみません…」 橋名は呆然と呟きながらも起き上がろうとすると、どろ、と鼻から血が滴ってしまった。 「え!?大丈夫じゃないじゃん…!ちゃんと言ってよ!」 沙凪は目を見開き慌てて橋名の上から飛び退くと、バタバタと走っていって ティッシュの箱を持って戻ってきた。 橋名は腰砕けになっていて、中途半端な姿勢でキッチンの壁に寄りかかり ばくばくうるさい心臓を抑えようと深く息を吸ったりしていた。 「すみません…なんかサナギさんでいっぱいになっちゃって…」 大量のティッシュを顔に押し付けられ、埋もれそうになりながらも橋名は苦笑した。

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