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世間話 2
「篠田」
廊下に出るとすぐに後ろから声をかけられる。
振り返るとさっき喋っていた由紀に見下ろされていて沙凪は無言のまま、何?という顔をした。
「ちゃんと聞いてたか?一生人の顔睨み付けやがって」
「はぁ?どうでも良くない?」
「いや、良くないだろ。仕事なんだから」
普通に正論でツッコまれてしまいながらも沙凪はため息を溢して腕を組んだ。
「この前は悪かったな…。
橋名くんとはたまたま会って、
企画部の話は聞いてたからどんな子か知りたかったってのもあったから…」
由紀は見た目はチャラついている癖に元々の真面目な性格が災いしているらしく、
すまなさそうに謝られてしまった。
企画部はキョウカ女史の手腕により会社中が注目しているので、橋名達もついでに話題に上がっているのかもしれない。
「いいよ。もう。いい当て馬で借りは返してもらいましたから」
「は?」
「あ…そうだ。忘れるとこだった」
沙凪は不意に思い出して、両手に抱えていた資料の中を漁り封筒を取り出した。
一応綺麗な柄の入った封筒だが、資料に適当に挟んでいた所為で若干くしゃっとなっている。
沙凪はそれを彼に差し出した。
「はい。」
「…なんだこれ」
「オリスパの券。お祝い。」
「マジで…?」
「ゆきくんにじゃなくて“奥様”に、ね。
君もちゃんと労わってあげるんだよ?産後の恨みは一生の恨みとか言うじゃん」
由紀は驚いたような顔をしておずおずと封筒を受け取った。
「篠田…」
さっきまで彼は仕事出来の偉い人の顔をしていたのに、今は普通の友達みたいな顔になっていて
沙凪は複雑に思いながらも小さく笑った。
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