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灯台下暗し 3
会社から出て並んで歩きながら駅へと向かっていると、向こうから誰かが歩いてきた。
シャツの上にパーカーを羽織り、ダボっとしたパンツ。
全体的にオーバー気味な服装で黒髪はハーフアップにされており耳には沢山の銀色に光るピアス。
リュックを片方の肩にかけていて、そのだらっとした様は学生感すらもあった。
彼はこちらに駆け寄ると、柔らかく微笑んだ。
「あ、よかったーまだいた」
眼鏡のないその顔があまりにも美しすぎて一瞬橋名はぽかんとしてしまう。
「誰?」
「えー…有澤くんひどいなぁ…」
「んえ?」
普通に短く聞いている有澤に彼は苦笑している。
「さ…サナギさん…なんで…」
「なんでって…一回着替えて戻って来たの!
まぁちょっと用事あったからだけど…まだいるかなーと思ってわざわざ来たんだよぅ?」
バチバチに決めている彼の姿は未だかつて見たことがなかった為、橋名は腰が砕けそうになって思わず隣の有澤の肩を勝手に支えにしてしまう。
デートの時だって彼は概ね寝坊しているので油断しすぎている格好ばかりで、それはそれで良いとは思っているのだが。
「もしかして…篠田さん!?」
「もしかしなくてもそうですよぅ…」
「いやいや誰かわからんて!」
ストレートなニュートラル男有澤は残業後にも元気にツッコミを入れている。
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