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デザート 4

駅に向かって歩き出すと、後ろから腕を掴まれてしまう。 「あの…サナギさん…!」 「んー?」 だらだらと振り返ると、橋名は必死な顔で沙凪の腕を握りしめていた。 「サナギさんも…疲れてるだろうし、ただでさえ俺… またサナギさんを困らせてるかなって思ってるんですけど…」 「…別に困ってないよ?」 「ま…まだ一緒にいたいって…言ってもですか…?」 相変わらず、一生懸命言葉を紡ごうとして結局素直に言うしかなくなっている彼に 沙凪はきゅんきゅんにやられてしまう感覚がして眉根を寄せた。 「んー…でも明日も仕事じゃん? ただでさえ結構遅くなっちゃったし…」 「そう…ですけど……」 全然腕を離してくれない彼に近付いて、どこか泣きそうになっている顔を見上げる。 「今…一緒にいたい……」 今までだって、可愛くて、大切にしたいと思えていた人はいたはずだった。 だけどどうして彼を前にすると、その真っ直ぐな目を向けられると、 自分の事で頭がいっぱいになっているみたいな、そんな顔をされると 脳がくらくらしてしまう。 「やっぱり俺…サナギさんを困らせてますよね…」 「そうだねぇ。もっと意地悪したくなって困っちゃう」 「え…?」 「明日も仕事だし遅くなっちゃったので、 今日は橋名くんちに泊めてもらおうかなーって話でしょ?」 くすくすと笑うと、橋名は目を開きながらぎゅううっと沙凪の腕を掴む手に力を込めてくる。

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