8 / 10

β夫と心中したΩ

β夫と心中したΩ。 βは領主長男。優しい兄のようなβに結婚を申し込まれ、Ωは快諾した。 数年後、β父の悪政によって民衆が反乱を起こす。 行き詰まった一族は、命を絶つしかなく…。 「一緒にきてくれるかい?」 夫からの問にΩは迷わず頷き、小瓶に入った毒をあおった。 気が付くとそこは天国…ではなかった。 「やっと目覚めた…!」 声の主は隣の領主の息子α。 「私は……βは…?」 「俺が屋敷に入った時、息があったのはお前だけだった。あいつは……βは、助からなかった」 Ωは泣き叫び、αを罵った。 「なぜあの人と一緒に逝かせてくれなかったのですか!」 病み上がりの体を起こし、ふらつきながらも死ぬ方法を探そうとするΩ。 そんなΩを寝台に押さえつけたαは静かにその言葉を吐く。 「お前はもう俺のモノだ。あの領地も民も我が一族の所有になった。民たちを丁重に扱って欲しければ、おとなしく俺の妻になれ」 「な、なんて卑怯な!」 Ω、β、αの3人は子供の頃からよく遊んでいた。 優しく物腰柔らかなβに比べ、αはよく言えば豪胆。悪く言えばガサツ。 正反対なβとαだが、同い年で領地の長男という共通点からか、周囲の目からも明らかな親友同士だった。 なのにαはいつも年下のΩをくだらないことでからかってきて…。 「あんなに優しいβが逝ってしまったばかりだと言うのに、あなたはその親友の妻を奪うのですか!貴方には人の心は無いのですか!」 「βはもう土の中だ。あいつにはもう何もできない」 鋭い視線で見つめてくるαにΩは力いっぱい叫んだ。 「だから私は貴方が大嫌いなんだ!」 ひとりで自室へ戻ったα。 Ωが目覚めてホッとした。 自分を恨むくらいの気力があれば、なんとか生きていってくれる気がする。 αは机の引き出しから1通の手紙を出した。 あの時急ぎ読んだその手紙に、αはもう一度目を通す。 −−− 親愛なるαへ 今夜12時に僕たちはこの世を去ることを決めたよ。 我が家の矜持を保つ為に。 僕を愛してくれているΩも、きっと、一緒に行くと言うだろう。 この手紙が君の手に渡るのは午後9時のはずだ。 Ωには薄い毒を飲ませよう。 間に合えば君にΩはあげるよ。 さあ、早馬で駆けておいで。 でも、Ωの心は僕が貰っていく。 君も一生叶わない恋に苦しむといいよ。 君への思いが叶わなかった僕のようにね。 β −−− 「こいつのどこが優しいんだよ…」 αは手紙から顔を上げると、深く深く息を吐き、静かに涙を零した。 完

ともだちにシェアしよう!